かたみ歌
連作短編集の基本、見本のような物語である。どこにでもある懐かしさをもった町を舞台に、ちょっとだけの不思議をスパイスに展開する人間模様。時に怖く、時に切なく人々の生き様を語っている。
連作短編集としての仕掛けは、ひとつの物語にちょっとだけ登場するキーワード、それは店であったり人であったりするのだが、それが次の物語の主人公となる技法は王道ではあるが、きれいに決まっており、また、前編を通じて登場する古本屋のエピソードで全体の物語をしめくくる構成力もまた見事である。とにかく、本当に連作とはこういうものであるという王道を王道として描いた、そんな物語であった。
と書くとべた褒めのように思うでしょうが、自分としては、そんなに入れ込んだ感想を持ったわけじゃあないのですね、実のところ。作話技法の見事さは確かにすごいと思ったのだけれど、そして各話ともに過不足なく見事にまとまっており上手いなぁとも思ったのだけれど、そのテクニックが逆にいやらしさに感じてしまったせいで、若干引き気味に読んでしまったのだ。
特に、昭和30~40年代をノスタルジックに描いているけれど、作者の年齢からするとその時代の空気を記憶しているはあまり思えず、つまり、これはあくまでも創作上のテクニック、技法上の装飾なんだろうな、と推測するわけですよ。そう思うと、昨今の昭和懐古ブームに上手く乗ってるようにもみえてしまって、結果、微妙に醒めてしまったということです。
でも、まあ、すごく勉強にはなるので、一読はすべきですね。
かたみ歌 (新潮文庫 し 61-1)
著者:朱川 湊人 |
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