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2008年3月16日 (日)

すべての美人は名探偵である

バカミスである。この場合のミスとは、ミステリーとミスコン、両方を指すわけだが、おそらく、いや確実に作者もそれを意識しているね。

ミステリーとしては鯨統一郎らしからぬ浅さではある。童歌の謎の展開も表層的で掘り下げが足りないし、物語運びにもいろいろと無理がある。そこいらへんはかなり残念賞であるわけだが、しかし、この小説はそういう話を楽しむための話じゃないからね。
基本的にはスター競演顔見せ興行であり、ある意味マジンガーZ対ゲッターロボみたいなものである(どんだけ古いたとえなんだ?)。だからストーリーは二の次でいいってもんでもないのだけど、つまりはキャラクターが活き活きと動き回ることに対しより優先度が高く、だからへんにロジックをこねまわして勢いを殺してしまうのは本末転倒なのだ。そう思う。

それにしても自分は最近、ライトノベルばっか読んでいるせいでおかしくなってしまっているのかもしれないが、この物語も、そんな目線で読めてしまってしかたがなかった。要するに百合百合なスラップスティックコメディということなのだが。主人公のいっぽうは、だめあね系(でも受け)で、もう一人は、妄想美少女系(でも攻め)。うーん、萌えますなぁ。てな感じ。これでツンデレだいたら完璧。みたいな。そんなバカな読み方をしても許せる、いや、そういう読み方を誘導されている、というのはやはり鯨統一郎にまんまと踊らされているのだろうなぁ。

ふたりの本筋の短編集も好きだし、そちらのほうが正しいあり方だとも思うのだけれど、このバカコンビの百合百合な!小説もまた書いてほしいなぁ、と本気で思う。そう思う自分はかーなり、毒されている。

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すべての美人は名探偵である (光文社文庫 く 10-6) Book すべての美人は名探偵である (光文社文庫 く 10-6)

著者:鯨 統一郎
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逆襲の地平線

この作者のストーリーテリングは常に見事である。今回も物語の勢いとスピード感、そして叙情性などがはまるべく配分で配置され、一気に読了させられてしまった。

自分は西部劇って実はそんなに好きではない。多分それは銃社会の悪しき礎となったゆがみをそこに感じているせいだ(というとエラソーだな。単純に銃反対ってことだ)と思うのだが、それはそれとして話として面白ければやはり嫌うべきではないとも思っている。

やはり今の時代に書かれるということの意義は、あるのだろうと思う。

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逆襲の地平線 (新潮文庫 お 35-8) Book 逆襲の地平線 (新潮文庫 お 35-8)

著者:逢坂 剛
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2008年3月12日 (水)

ジャストボイルド・オ’クロック

うーん、ビミョーに期待はずれ。もっと小粋なアクション(格闘とかの、ではなく行動する者の物語としての)ストーリーを想像していたのだけれど、ライトノベル的内省成長痛があっての、いかにもなヒーローストーリー(?)であった。それはそれでいいのだけれど、語り口が雑で言葉足らずなところと冗長なところが入り組み、ようはあまり整理ができておらず、すんなり読み進めなかった。いかにも残念である。

人類崩壊後の家電共生人類というアイディア、CI戦略としての職業的ヒーローというアイディアなど、けっこう面白げな設定ではあるのだけれど、それがきちんと生かしきれていない。それも物語が整理できていないことによるもので、ああ、もったいないなぁ、と思うわけだ。

いろいろと悩み多い現実社会に生きている我々としては、そのようなしがらみから離れて痛快ハードボイルドヒーロー小説をものにしていくってのもなかなかに難しいのかもしれない。

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ジャストボイルド・オ’クロック (電撃文庫) Book ジャストボイルド・オ’クロック (電撃文庫)

著者:うえお 久光
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2008年3月 8日 (土)

闇を見つめて

相変わらずミステリーとしては弱い。しかしこの小説はミステリーとしてではなく、アメリカという国でふたつの大戦のあいだにあった普通の人々の歴史を描いているのであり、その視点からすると実に面白いのである。今回は引き続き恐慌時代の中で起こったデモを主役としている。これが実に見事で、ああ、こういうことがあって歴史が動いていったのだなぁ、と本当に読ませられた。

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闇を見つめて (創元推理文庫) Book 闇を見つめて (創元推理文庫)

著者:ジル チャーチル
販売元:東京創元社
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オオカミさんと毒りんごが効かない白雪姫

バカだねぇ、相変わらず。中学生並みの、いや小学生並みのエロ発想、大好きです。

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オオカミさんと毒りんごが効かない白雪姫 (電撃文庫 お 8-11) Book オオカミさんと毒りんごが効かない白雪姫 (電撃文庫 お 8-11)

著者:沖田 雅
販売元:メディアワークス
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かたみ歌

連作短編集の基本、見本のような物語である。どこにでもある懐かしさをもった町を舞台に、ちょっとだけの不思議をスパイスに展開する人間模様。時に怖く、時に切なく人々の生き様を語っている。
連作短編集としての仕掛けは、ひとつの物語にちょっとだけ登場するキーワード、それは店であったり人であったりするのだが、それが次の物語の主人公となる技法は王道ではあるが、きれいに決まっており、また、前編を通じて登場する古本屋のエピソードで全体の物語をしめくくる構成力もまた見事である。とにかく、本当に連作とはこういうものであるという王道を王道として描いた、そんな物語であった。

と書くとべた褒めのように思うでしょうが、自分としては、そんなに入れ込んだ感想を持ったわけじゃあないのですね、実のところ。作話技法の見事さは確かにすごいと思ったのだけれど、そして各話ともに過不足なく見事にまとまっており上手いなぁとも思ったのだけれど、そのテクニックが逆にいやらしさに感じてしまったせいで、若干引き気味に読んでしまったのだ。
特に、昭和30~40年代をノスタルジックに描いているけれど、作者の年齢からするとその時代の空気を記憶しているはあまり思えず、つまり、これはあくまでも創作上のテクニック、技法上の装飾なんだろうな、と推測するわけですよ。そう思うと、昨今の昭和懐古ブームに上手く乗ってるようにもみえてしまって、結果、微妙に醒めてしまったということです。

でも、まあ、すごく勉強にはなるので、一読はすべきですね。

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かたみ歌 (新潮文庫 し 61-1) Book かたみ歌 (新潮文庫 し 61-1)

著者:朱川 湊人
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悪夢のエレベーター

これは小説ではない。コントである。というのが一番はじめに感じたことである。
さえない若者に怪しい中年、妄想系ゴスとエレベーターに閉じ込められて、さあどうする、というシチュエーションがまずは胡散臭い。それからの展開も、動的に物語が動いていくというよりは、4人のテンパッた会話劇として進み(それは密室劇だから当然でもあるのだけれど)、やがてとんでもない方向に事態が進展していくというのは、実に舞台的、コント的であるなぁ、と。

もっともこれが「藪の中」的手法による、第2章、第3章と進むにつれ、そのありえないシチュエーションが実は必然であることが浮かび上がってきて、さらには、不条理が条理として(?)、悲劇的な喜劇として幕を閉じるわけだが、その落着のしかた、それに至るまでの伏線の置き方などは、なるほどそうきたか、とちょっと唸らせられてしまった。

読後の感想としては、単なるコントではなく、コント仕立てのシチュエーションサスペンスだったんだなぁと思った。けっこうお勧めしたい。

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悪夢のエレベーター (幻冬舎文庫 き 21-1) Book 悪夢のエレベーター (幻冬舎文庫 き 21-1)

著者:木下 半太
販売元:幻冬舎
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閉じられた世界 絶望系

これはひどい。ライトノベルの形をとったアンモラルな妄想小説だ。いや、もちろん誉めているのだけれど。

登場人物皆、人として正しくなく、己の業と妄想に自家中毒し、一見他者とかかわっているようにみえる物語の中で、実はただ自己の主張を垂れ流すのみの一方通行の断絶っぷり。セックスすら、他人の肉体を使ったオナニーでしかない。そこには愛(イコール他者と対等に向き合うこと)などない。そんなドロドロとしたナニカを天使や死神にかこつけて物語っぽく語ってみた。という野心作にして問題作である。

ひどいなぁ、と思いつつ、もちろん一気に読むことを楽しんでしまえたのは作者の文章力によるところも多い。その確信犯的なルサンチマンがどれだけの人に受け入れられているのだろうか、それは気になるところである。

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絶望系 閉じられた世界 電撃文庫 (1078) Book 絶望系 閉じられた世界 電撃文庫 (1078)

著者:谷川 流,G・むにょ
販売元:メディアワークス
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神様のパズル

「宇宙を創る」という、実にSFらしいアイディアのSFとして物語が展開するのかと思っていたのだけれど、実際は天才科学者少女の成長痛と通過儀礼の物語であった。肝心の壮大なホラ話としてのSF的ストーリーは、まあそれがメインテーマでもありそれなりに語られてはいるものの、やや不完全燃焼。実際にどうなったのか?の部分については逃げをうっており、ちょっとそれはずるいなぁと思わざるを得ない。こちらがSFの王道を必要以上に期待していたせいかのかもしれないし(それは小松賞というブランドに対しての期待でもあったわけだが)、その点、ちょっと不当な感想になっているかもしれない。

以上のような色眼鏡をとりあえず外して読めば、マイナージャンル(この場合、理系研究室)の若モノ小説としてそれなりにきれいにまとまっており、面白いとは思う。

でも。やっぱり。ガチでコアな空想科学な小説が読みたかったなぁ。

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神様のパズル (ハルキ文庫) Book 神様のパズル (ハルキ文庫)

著者:機本 伸司
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