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2008年2月13日 (水)

写楽・考

面白かったことは面白かったのだけれど、若干鼻につくところもあって、心地よくない印象もないわけではなかった。
最近我ながら偏狭な考えだなぁと自重しているのだけれど、民俗学に限らず再現性を伴えない、また確たる証拠を提示できない学問は実証なき仮説のみの学問の檻から逃れることができない。またその仮説も客観性が保ちにくく、結果として研究者の数だけ論が増えていく状況に陥らざるを得ない。またその説の強度が往々にして論の成否ではなく、人間関係のパワーゲームで決まっていく、などなど、学問として誠実じゃあないのではないか、という思いがある。これらの課題については本作内でも幾度となく言及されているのだけれど、だからどうしたら、という視座がないため読んでいて「なんだよ」と思うわけである。もちろん、本作が根本的には推理エンタテイメント作品であるため、ポリティカルな提言は不要なのだけれど、読んでいて自家中毒気味だな、と思ったりするわけだ。

それはそれとして、表題作。タイトルと話が全然あっていなくて、どうなっていくのだろうと思わせ、その結果として「写」と「楽」による事件と考察であったのか、という構成には、あれれと思った。そしてさらにもうひとひねり加わり、タイトルと謎がリンクしていく結末には、若干の強引さを感じつつ、なるほどね、と思うのであった。勝手な推測だけれど、この物語自体、タイトルの洒落が先にあって構成されていったのではなかろうか。

そんなこんなで、歪んだ感想を云ってしまったが、適度な長さとアイディアの好作品集であった。

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