風の向くまま
さほどにのめりこむほどの完成度ではなく、さりとて凡作というには忍びなく、そこはかとなく面白かったという感想であった。
基本的にキャラクターで読む小説だと思う。それなりに真っ当で、でもどこかブルジョアの尊大さが抜けきれずそれを本人達も自覚していて、という、一見まともで、しかしよく考えるとちょっと屈折している主人公のロバートとリリーの兄妹の行動が物語を牽引する。活き活きと(というほど活発でもないのだけれど)した、探偵ぶりは微笑ましく楽しむことができた。
反面、ミステリーとしてはちょっと雑で、謎を解く鍵が途中一言もふれられることなく、謎の解明のときにはじめて登場するというのは、本格推理的には問題だろう。もっともこの小説はそういうタイプの作品ではないという認識で読んでいるので、自分としては気にはならなかったのだが。
興味深いのは、舞台が大恐慌時代であるということだろう。その当時の生活者の状況が作品の進行上、密接に(でもないか)関係していることもあり、深く描かれていて、なるほどミクロ的にはそういう感じの時代だったのだなぁ、と、これはけっこう勉強になった。
風の向くまま (創元推理文庫)
著者:ジル チャーチル |
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