はい、泳げません
はい、自分も泳げません。人間は必ず浮くからという虚言を信じられません。人は沈むのですよ、絶対に。プールならまだしも海だったら最悪。沈むだけじゃなくそのままどこかへさらわれていってしまうに違いない。水怖し! だから筆者の苦悩が実によく判る。
この本の一番の読みどころは実は本文ではなく、章間のインストラクターの一言にあるように思う。これが実に憎らしい。泳げない者の心がまったく判ってない人間の無意識の優越感が文中にしっかりと表現されている。少なくとも自分はそういうふうにしか読めなかったのだが、泳げる者からすれば、なんでそうひがみっぽく読むかなぁ、と思うのかもしれないとも思うし。身体能力/機能がもたらすこのディスコミュニケーション。もっともこれが本作の泳げる者と泳げない者の思考のズレを相対化して表現しており、そこが面白いなぁと思って読んだのも確かなんですけれど。
ともあれ、泳げない人は必読。読んで泳げるようにはけしてなれないけれど、泳げないことに対する共感を得ることだけはできると思う。ただ惜しむらくは筆者は「泳げない人」のままであってほしかったかなぁ。
はい、泳げません (新潮文庫 た 86-1) 著者:高橋 秀実 |
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