輪環の魔導師 闇語りのアルカイン
奇をてらうこともない実に王道のハイファンタジーである。
剣と魔法の世界は、描き方によっては陳腐なものになってしまう。これまで何度も云っていることだが、(PCゲームとしての)RPG登場以降、ファンタジーという物語は「異世界を創る」を描くことから、パラメータ的な追体験を文章化したモノへ、シフトしてしまった。すべての作品がそうだというつもりはないし、もちろん優れたファンタジー作品も発表されている。
しかし、総量の割合を考えると、後者の作法で生み出された作品が雨後の竹の子のように増えていることは確かであろうし、その結果、ファンタジーの地力を弱くしている。と自分は感じている。
登場人物設計も戦士や僧侶、魔道師など、既存の属性をそのまま使用し、なぜその職業があるのか、という根本的な問いかけをしないまま書いている作品は、趣味の範囲ならいいが、プロとしてはいかがなものかと思う。
せっかく世界を創る神なのだ。マップやキャラクターだけではなく、オリジナルの社会や歴史、政治や宗教を夢想してほしいと思う。
で。本作は、基本的には既存の世界観をモチーフにした王道的構造下にありはするのだけれど、誰しもが魔法を使える世界という(完全に独創的ではないにせよ)この世界独特のオリジナルの設定を基本とし、さらにそのアイディアが物語の推進力として機能する構造を組み立てていて、作者の、自分の世界を読んで欲しいという意思が伝わってくる。好感度は高い。素直に楽しんだ。
もっとも、物語の展開自体はかなりベタで、先が思いきり読めてしまう。のだが、とりあえずはシリーズ初巻、主人公達3人が旅に出るための序章だとして、そこは甘めにみたのだがどうだろう。とりあえず、次巻以降どう化けていくのか、あるいは失速するのか興味津々と云ったところである。
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