さよならピアノソナタ
本当に普通に青春小説なのである。超人的な能力もなければ異世界からの侵略もない。あるのは、ただ音楽に対する才能と想いだけである。しかも、登場人物たちの関係性も友情以上恋愛未満のいまどきの物語とは思えないくらいのピュアっぷり。もちろん、それは本作のテーマとドラマツルギー的にもっとも適切な選択であり、その判断は正しいのだけれど。まあいまどきの小説としては珍しいともいえる。
たぶん、話としては(いい意味で)実に平凡で小さな物語であるため、日常の積み重ねが重要なファクターである。作者は、そこらへんの「フツウ感」を描くのが実に巧みで、だから話が陳腐なものとして終わっていないのだろう。
語り口としてもうひとつの特徴を挙げるなら、登場人物が等身大に近いということである。常日頃、小説やマンガを読んでいて思うのは、描かれる人物像の設定年齢とメンタリティ年齢のギャップであるのだけれど、この作者は比較的マッチングしていると思う。だからこその物語としてのリアリティがあって、血肉の入った作品となっているのだと思う。この資質は実はけっこう稀有な才能であり、今後が実に楽しみだ。
最後に一言だけ付け加えるが、この作品は1冊で完結しているので、つづきは出さないでほしい。これは本当に切実にお願いしたい。
さよならピアノソナタ (電撃文庫 す 9-6) 著者:杉井 光 |
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