マルティプレックス―彼女とぼくのコミイッタ日々
仮想空間と現実社会との多重構造による物語というのは、コンピュータゲーム登場以来、ひとつのジャンル形成をしているといってよいだろう。これはそんな作品群のひとつである。そのせいか、どのせいか知らないが、まあ普通だなぁ、というのが率直な感想である。
いろいろツメが甘いのが気になって作品に上手く入り込めなかったのがいけなかったのかもしれない。
仮想空間内の登場人物が、軍隊の階級を持つのはいいとして、もっと階級差ある者に対して対応に差があるものではなかろうかと思うのだ。上官と部下はいかにフランクな関係であろうとも完全にフラットではないはず。特に軍隊という規律を重視する集団においてはそれが顕著であると思うのだ。あるいは、それは意図的にそう書かれているのかもしれないとも思う。仮想空間があくまでも「ゲーム」という、現実ではない場所であることを作者が強調するために、そのような書き方をしたといううがった見かたができなくもない。しかし、そこまで深くこだわった世界構築をしているとも思えず、故に、なんか雰囲気で書き流してるんじゃないかなぁという気がなくならなかったというわけだ。
中盤以降で明らかになる、仮想空間招待者の選別方法が自殺志願者であるというのには、オリジナリティを感じだが、結果としてそれが本作ではまだ活かされきってはいない。それは次巻以降ということなのだろうし、けっこう期待するところではある。
マルティプレックス―彼女とぼくのコミイッタ日々 (電撃文庫 た 13-5) 著者:田村 登正 |
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