冬の巨人
一気読みの面白さであった。もっともそんなにボリュームのある本でもないということもあってのことだが、文章構成が昨今のようなトリッキーさがなく、ストレートに物語を追うことができたせいであろう。
また、その物語についても、適度な速度感を持ちつつ、しかし日常的な風景を中心に描くことで、ヘンに勢いだけをつけて異世界ファンタジーの世界自体を主役に、し得ていると思う。そうなのだ。ファンタジー小説とは本質的にその世界(という設定)こそが主役となるべきものなのだ。戦士や魔術師などといったステレオタイプの借物の設定でゲームの追体験を縮小再生産することではない(まあ、それでも面白ければいいんだけど、往々にしてショボイ結果になることが多いからね)
不満がないわけではない。第3章までの巨人のアルミのようにゆっくりとした話の進み方、世界の摂理の解き明かし方に比べ、怒濤の展開となる第4章以降については正直、勿体ないというレベルではないくらいにあまりにも駆け足にすぎる。
世界の崩壊と再生という物語を、ヘンに修飾せず純粋な形でまとめようとしているのか、とも思うが、しかし、おそらく普通に描くつもりであるならば、3倍くらいの量が必要だろうに。
基本的に物語は、「どうしたか」だけを描いており、「なぜそうなったのか」という謎解きは巧みに排除されている。だから、レーナという重要なキャラであるべき人物についても謎の存在のまま、最後まで象徴として機能するのみである。第一、巨人とはなにかという根本的な謎についても、いっさいが不問なのである。あとがきで本人が書いているとおり、寓話としての機能としては十分に働いている。逆に寓話として成立させるために謎は謎のままとしているのだといえる。作品としても必要最小限で完結させているのもそのためだろうといえる。
とはいうものの、巨人の背に広がる移動都市という、とんでもない、しかし非常に魅力的な架空世界は(移動する都市という部分で云えばプリーストの「逆転世界」などがあるが)、非常に独創的かつ魅力的である。もっとその世界を知りたいと思う気持ちは当然で、かなり勿体ない。贅沢にアイディアを消費しているなぁと思う。
といいつつ、そんな世界の再生をテーマかつ結論にもってくる以上、ストーリーとしてはあまり広がるものでもなく、そういう意味では、このような収束が必然だったのかもしれない。
ともあれ、お勧めである。
冬の巨人 著者:古橋 秀之 |
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