塔の町、あたしたちの街
前作「永遠のフローズンチョコレート」が個人的に非常にスマッシュヒットだったので、本作も読んでみたのだが、なかなかに感想が難しいなぁ。悪くはないんだけど、自分の求めるものとの若干のギャップがなきにしもあらずだなぁ。と思うのだった。
冒頭から、いきなり宙に浮かんでいたり羽がついていたりという、普通の人達じゃない。という設定についてなんの説明もなく、話が進んでいくのにはちょっと驚いた。実はその手法は正しい作話技術であって、説明過多な昨今、ちょっと異質な世界であるという雰囲気づくりを文章の力で感じさせようとしている(ただ、エクスキューズがあまりにも中盤以降となり、一時はどんな話なんだよ。と不安になったりもしたが)。
ただ、そんな曖昧な書きっぷりのせいか、冒頭からしばらくは話が進まない。かなりスロースターターなのである。主人公達が図書館に行くあたりから話が転がりだし、歪気という設定について判りはじめてきて、ああ、なるほどね、とようやく作品の中に入ることができた感じだろうか。
そこまではいいのだけれど、結局のところ、その歪気という根本設定とそこから派生する様々な設定や異能については、感想としては微妙で、いわゆるライトノベル的異能伝奇的展開に集約されてしまい、物語としては、ありがちなものに平準化されてしまったように思う。別に破綻しているわけでも、完全なステレオタイプというわけでもないのだが、もう少し、異端の謎であっておよかったのではないか。例えば超人設定なんかはいらかなかったのではないか、と思う。
それは、自分は扇智史について、ある程度の期待があったせいなのだろう。自分の中で扇智史とは、心情を(ライトノベル的テクスチャではない)今風の言葉で表現するのが上手い作家であるという認識があって、それは本作品においても発揮されていて、ちょうど中間地点あたりの主人公達の心の動きや葛藤は見事だと思った。
だからこそ、ヘンに超人設定とかアクション場面とかそういうサービスは排して、むしろ、ちょっと不思議程度の環境設定状況設定で、そんな中で普通の登場人物達がどう思い考え答えを見出していったかというような物語、大雑把に云ってしまえばビルドゥングス的な物語であってほしかったなぁ、と思うのだった。
そういうわけで自分で勝手にハードルを高くして読んでしまったのかもしれない。ちょっといい読み方ではなかったかなぁ、と思う次第である。
塔の町、あたしたちの街 著者:扇 智史 |
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