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2007年4月30日 (月)

鹿男あをによし

もっと若書きで荒っぽいかな、と思って読み始めたのだが、どうしてどうして、実に正統派のファンタジーであった。物語的にも文章的にも饒舌すぎず小手先のテクニックに走らず、素直で読みやすい。あまりにも素直すぎて、物足りないと思うむきもあるかもしれないが、自分としては好感触だったなぁ。
ネタとしては、これまで培われてきた同傾向ジャンルとしては、巷で騒がれるほど奇想天外という程ではない。しかし、人物造形(鹿も含む)や、語り口のおかし味などが、要所要所に散りばめられていて読んでいて楽しい。この「楽しい」というのが、小説としては重要なのだ。(それにしても鹿のフン、出しすぎ(笑)!)

とりあえずファンタジーと括ってみたが、実はその小説のジャンルってなんだろうと思う。伝奇モノというには飄々としすぎているし、寓話というには(いい意味で)俗的すぎる。現在の日本の状況ではファンタジー・イコール・エピック系とみる傾向があるように思うのだ。
というわけで、ひょんなことから奈良の女子校の臨時教諭となった先生と鹿と狐と鼠の冒険。そこに日本の古代史(邪馬台国など)が絡み、スポーツ大会系の物語が入り込んで、そして淡い恋物語であったりもする。全体として夏目漱石の「坊ちゃん」をオマージュ的にモチーフとして使っていたりもする。こんなもりだくさんの娯楽を端的に指し示すジャンルを、自分は思いつかない。多分、一番近しいのはあらゆる奇想独創暴走を容認内包しなおかつ類型化できない異端を娯楽として提供する「日本ファンタジーノベル大賞系ファンタジー」なのかもしれない。
ま、実は、そんなまわりくどいいいかたをしなくても、これは一級のエンターテイメントである。といえばそれでいいともいえるか。

自分は古都好きなのだが、観光巧者の京都よりはどことなく地味で控えめな奈良に親近感がある。なわけでそれなりに訪れていたりもするわけだが、文中の場所がなんとなく想像がつくせいで、より面白く読むことができたのかもしれない。そして、読み終えた今、無性に奈良に行きたくなっているのであった。

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