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2007年3月15日 (木)

砂の城の殺人

※ 注意! 文中、作品の謎の真相を推測させてしまう記載があるかもしれません。

またまた己の狭了力を発揮してしまったのか。いまひとつ楽しむことができなかった。思考実験としてのミステリーとしての構造に関しては確かに正統派、王道であり、その点については異論も反論もない。そのとおりです、というだけである。

ただし。謎、すなわち読者に提示される問いについては、もう少し驚かせてほしかったなぁと思う。確かにハウダニットについては謎とそれに対する複数の解釈を示し、なるほどねぇ。という感想ではあるが、しかし、フーダニット、そしてホワイダニットに関してはあまりにも判りやすく、謎の提示時点でモロバレに近い状態になっている。それをごまかすための作為が主人公の短絡的な判断を表記するだけ、というのはあまりにもどうなのよ、と思わざるを得ない。だって、主人公がオバカであることは読者はまったくもって承知しており、このコの考えは概ね間違いであると容易に推測し、結果、逆説的に真相に気づいてしまうというわけだ。

もうひとつの課題は、主人公の魅力のなさ。これは自分だけの感想なのかもしれないが、あまりにも短慮でただキャーキャー騒いでいるだけ。好意を持てないのである。例えば、スペインに行くという強い意思はいい。しかし一人で行くと決めているのならば、せめて語学ぐらいはどうするのか考えるのが普通だろうに、そんなそぶりもない。そういう気持ち先行、実現能力皆無的なキャラクターに、愛着は持てないのだ。もちろん、本作が思考実験としての本格推理であり、キャラクター性を重視する必要がさほどないのは本当であろう。しかし、上述のとおりエクスキューズを主人公に負わせている部分が多分にある場合、ある程度の信憑性を感じさせるに足る人物造形は必要だと思うのだ。

というわけで、かなりきびしい見かたをしてしまったわけだが、解説で指摘されてしまったように、これって「自分の老い」のせいなのかしらね。

ちなみに今回一番きれいなミステリーの解だと思ったのは、主人公の父親の所在に関する答え。実にスマートな推理とその実証を行っている。その点においてこのシリーズにおける名探偵役の面目躍如といえるだろう。

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