しずるさんと無言の姫君たち
相変わらず面白いのだけれど、短編集だけに物語構造についての考えが常に付きまとうのであった。
事件は単純に。それをミスリードさせるための修飾を散りばめる。それが「しずるさん」の物語構造である。なんのことはない、本格推理の基本なのだ。なのになぜに胡散臭さがあるのだろうか。それは物語として(別舞台も描かれつつも)基本的にはしずるさんとよーちゃんのいる病室だけで展開されるからだろう。このことにより物語は実に抽象的なものとなりし、事件は仮定・架空の思考実験に純化される。まあ、このこと自体、やはり本格推理のフォーマットであることの追証なのだけれど。
そして本当はこちらこそが推理小説らしからぬ印象を与えているのだが、つまりは推理の過程がない。のだ。あるのは結論と仮定。事実としてそうだったと論証されるのは作話としてそうなったと書かれているからであり、実証行為は伴っていない。ああ、これもやはり思考実験であることの説明だね。
ということは、しずるさんという物語は、本格推理のコアをそのまま文章化したものである、ということになってしまうのだが、それも違和感があるのであった。
この物語が大いなる叙述ミステリーなのかもしれない。と、ふと思ったのであった。つまり。しずるさんは現実には存在しない。心の病気であるよーちゃんの頭の中にだけ存在し、よーちゃんのお見舞いは実際には通院である。そんなことを考えたが、まあ、単なる思いすごしであろうさ。
しずるさんと無言の姫君たち―The Silent Princess In The Unprincipled Tales 著者:上遠野 浩平 |
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