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2006年11月29日 (水)

ロケットガール(2) 天使は結果オーライ

ノーテンキで無茶な、でもなぜかリアルな宇宙飛行ミッションのスラップスティックコメディハードSFである。って自分でもなにをいっているのかよくわかりませんが(笑)。

この物語の真骨頂は、あまりにもバカバカしいうそ臭さ(緊急不時着が母校になる天丼)とリアルなミッション(探査衛星の救出)が同列で描かれているにも関わらず、違和感がないということだろう。(元)女子校生宇宙飛行士という、大ネタに誤魔化されているからさ。といってしまうのは簡単な結論だけど(ホントはそんな理由ではないのだけれど)、むしろ作者の文章の資質によるような気がする。

今回初登場の水星の人(笑)は、その科学者体質っぷりにかなり心惹かれるものはあったな。彼女だけじゃなく、登場する科学者や基地のクルー達全員が持っている、いい意味での科学者気質って自分はすごく好きで、愛すべき人達の頑張り/踏ん張りには、かなり“燃え”をギュンギュン感じたなぁ。

面白し! お奨め!

天使は結果オーライ―ロケットガール〈2〉 Book 天使は結果オーライ―ロケットガール〈2〉

著者:野尻 抱介
販売元:富士見書房
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2006年11月28日 (火)

クレイジーカンガルーの夏

別に優劣をつけようということではないことはいうまでもないが、これはいわゆるライトノベルではなく、(良質の)児童小説、成長小説であろう。それがライトノベルのレーベルで発刊されたことにどういう意味を見出すのかは、まだよくわからないが、本来の児童あるいは少年少女に向けて発信される小説として、ジュブナイルとライトノベルという分けがあるとして(実際あるのだが)その境界線はいずれ曖昧になっていくこともあるのだろうな。というか、例えとしてまったく適切ではないことを承知であえて書くと、娯楽小説と純文学の推移関係に似ているのかもしれない。

とにかく、数人の少年たちのひと夏の冒険と成長の物語として、読んでよかった。と思えたのだった。

それはそれとして、しかしだね。ファーストガンダムが中学だったってことは、ヤマトは小学低学年だよね。ウルトラマンは生まれたか生まれていないかあたりでしょ? なんか同時代感としての郷愁をイメージングするために書き込んだ感じがするけれど、少々無理があるように思った。それとも関西方面での放送ってかぶってのだろうか? いずれにせよ、その部分に関してはリアリティが感じられなかった。むしろサブカル的エピソードの挿入は無理にしなくてもよかったんじゃないかなぁ、と思うのだった。

クレイジーカンガルーの夏 Book クレイジーカンガルーの夏

著者:誼 阿古
販売元:ソフトバンククリエイティブ
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2006年11月21日 (火)

リアル(6)

障害者スポーツを題材にしているが障害者の物語ではなく、アスリートの物語である。障害を持つ友人もいて、だからメディアなどにおける、かわいそうな人たちとか、がんばってる人たちとか、そういうどういうスタンスであれ障害を持つ者に対する特別視する感覚って違うだろ、と思っている。だからこそこの作品の持つフラットな視線は自分にとってのツボだったのだ。

もっともここ数巻はちょっと様相が違ってきていて(それはそれで非常に面白いのだけれど)、今は人物を掘り下げているあたりなのだなぁ、とも思っている。

ともあれ、ものすごいクオリティであり、年に1回の発刊ペースについて不満を持ちつつ待ち遠しく思う、そういう作品であるわけだ。

リアル 6 (6) Book リアル 6 (6)

著者:井上 雄彦
販売元:集英社
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2006年11月20日 (月)

皇帝ペンギンが翔んだ空

ほのぼのだなぁ。幽霊が出てきているけれどスーパーナチュラルを売りにしている物語ではなく、むしろ田舎の日常に繰り広げられるスラップスティックコメディだね。反発と和解の物語は成長の物語でもあり、ゆえに読んでいてスッキリするわけですよ。カタルシスがあるわけですよ。そういう話はいいよね。

いろいろと個性ある登場人物ばかりではあるが、個人的には怪しい居候兼トリックスターのポーにはちょっとやられてしまいましたね。

皇帝ペンギンが翔んだ空 Book 皇帝ペンギンが翔んだ空

著者:祭紀 りゅーじ
販売元:メディアワークス
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超鋼女セーラ

ものすごいベタで王道な(?)ライトノベルで、正直読後になにも残らないタイプのエンタテイメントではある。しかし。だから。ツボを見事に突かれたというべきなのだろう。はい、本気で楽しんでしまいました。いや、マジで面白かったんですよ。

ロボ娘と人間男子との純愛にキュン、ロボ娘同士のライバル的友情にキュン、ロボ娘に心があるのかというSF的命題にキュン、と確実に押えるべきところを押さえてきているのだ。読み手はそのレールの上を走っていけばいいだけなのだ。オリジナリティがないじゃんとか、タイトルが駄洒落じゃんとか、そういううがった見かたは必要なし。ただ純粋に楽しめるということも重要なんですよね、たまにはね。

たぶん、ここしばらくひねた邪気だらけの本ばかり読んでいたので、こういう単純明快なストーリーに見事にシンクロしただけなのかもしれないし、イラスト加点が多分にあったのかもしれない。読み時期によってはダメ出ししている可能性だって十分あっただろう。しかし、今、このときに読んで自分はよかったなぁ、と思うのであった。

超鋼女セーラ Book 超鋼女セーラ

著者:寺田 とものり
販売元:ホビージャパン
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2006年11月14日 (火)

サインをつかめ!

そこはいっちゃえよ。→ああぁぁぁんん(とノリツッコミしてみましたよ)

ひとつの出来事が次の出来事を生む、いわゆるバタフライエフェクト系の物語で、それに学校の怪談や恋愛模様などが絡んで、といった感じ。アイディアは悪くない。しかしなんとなく釈然としないのは、やはり人物造形が雑だからろうか。読む人によってどう印象されるかは別れるところだろうが、少なくとも自分にとっては登場人物の誰にも共感を覚えられなかった。

特にキーパーソンである彼。すべての話をつかさどる役どころなわけで、そのネタ晴らし的なクライマックスは、それまでさえなかった彼が実は。。。 というカタルシスに結びつけるつもりだったのだろうけれど、あまりの策士ぶりに腹黒さと粘着気質なストーカーっぷりに思い切りドン引きである。自分が彼女だったら彼の本性知ったら恐怖を感じるですよ、ホント。
そんな、なんか違うだろうという気持ちがどの登場人物にも感じられて、ホラー(あるいは都市伝説的)テイストの青春群像劇となりえてないのだ。本当にアイディアはいいのにどうしてそんな話になっちゃうのってくらいにね。

もしかしたら、タイトルから連想する軽快な物語とは裏腹な部分もそのアンマッチっぷりに拍車をかけているのかもしれない。けっこうお題のつけ方って重要なのかもしれないなぁ、と思うのであった。

サインをつかめ! Book サインをつかめ!

著者:長谷川 昌史
販売元:メディアワークス
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2006年11月12日 (日)

モノケロスの魔杖は穿つ

設定は面白いと思うんだけど、小説としてはどうも好きになれない。作者が定めたルール/世界を成立させるために登場人物が振り回されている。人物造形が手薄な感じだし、存在自体にコマとしての意味以外をみていないように思えるのだ。物語なんていうものは多かれ少なかれそんなもんなんだけれど、本作はそれが度を越しているように自分は感じた。作者自身もゲームという言葉を使っているように、国対国というゲームを進めるためにキャラクターというコマを動かしているのだな。

文体も暗喩だらけの腹の探り合い的交渉会話ばかりで思わせぶりではあるが、自分としては、それは独りよがりな自慰行為のような気がする。

組織や集団の戦略/攻略/交渉というようなストラテジー系小説が好きなら楽しいのだろう。自分もけして嫌いというわけでもない。しかし、そればかりを押し進めてキャラクターをなおざりにするのはいかがなものか、と思う気持ちのほうが強い。こう書くと自分がキャラ萌え重視のように思われてしまうかもしれないが、そうではなくて、キャラクターが物語に対してアイデンティファイされていないのが小説のあり方として好きじゃないということである。

といいつつ、次の展開は気になるので次作も読むと思う。

モノケロスの魔杖は穿つ Book モノケロスの魔杖は穿つ

著者:伊都 工平
販売元:メディアファクトリー
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2006年11月 8日 (水)

蛍の行方 お鳥見女房

時代小説としては王道である。人情話であり、侍としての物語である。自分としてはもう少し公儀隠密としてのエスピオナージ色が強くてもいいかなぁ、と思わなくもないが、しかし十分に楽しんではいる。惜しむらくは、短編集といいつつ1話1話が密接につながっているというか、単なる長編であり、引きが強くて続きが読みたくて仕方がない、ということだろうか。

蛍の行方―お鳥見女房 Book 蛍の行方―お鳥見女房

著者:諸田 玲子
販売元:新潮社
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官能小説用語表現辞典

官能用語の集大成といっても過言ではない(?)。エロ単語の比喩表現について、よくぞここまで想像を広げることができるものだ、と半ば呆れつつ感心するのである。

実のところ、辞典としてはツメの甘さもあって、用例集だけで終わっているのが残念といえば残念なのだ。が、しかし、じゃあどうすればいいのさ、と云われるとなかなか思いつかないのも事実。それぞれの単語の説明をされてもなぁ、てなもんである。実際、エロ単語なんて「出オチ」みたいなもんで、説明すればするほど蛇足で冗長かもしれんし。

それにしても。男子だったら誰でも経験があると思うが、中学時代、国語辞典で「淫乱」とか「手淫」とか、そういう単語を引いては一人興奮したもんですよね。そんなときにこの辞典があったら、そりゃもう何杯でもドンブリ飯いけたか判らんですよ。今じゃピクリともしないがね。下品ですみませんずり。

ともあれ一家に一冊。マジで(笑)。

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七不思議の作り方

一見、ホラーのようでありファンタジーのようでもある青春物語といえば、思い出されるのは恩田陸の「六番目の小夜子」であるが、本作も基本的なフォーマットはまったく一緒である。怪談的な謎があり、実はそれが人為的な作為であり、なおかつそこに不思議な香り/余韻が残る。そんなフレームはかなり近しい。もちろん、それを物語化するためのストーリーは、別のものだし、真似だとかいうつもりもない。オリジナリティはあると思うし、実際、かなり楽しく読めた。

その上で、不満を述べさせてもらうならば、やはりヘンな青臭さが鼻につくことだろうか。カタカナの用い方もこだわりがあるみたいだが、そこばかりが中途半端に目について気をとられてしまう。物語に集中して欲しいと願うのならば、通常用いられる書き方にすべきでは? また食にまつわる部分での挿話(例えばおにぎり)だが、微笑ましくはあるけれど、そんなに奇妙奇天烈ではない。客観的にヘンとフツーがよめていないのかな、と思えてしまう。むしろもっとさらっと書き過ごしてくれたら「ひねくれ加減が心地よいなぁ」と思えるのに、自分でハードルを上げちゃってる感を受けてしまっている。

その他、主人公のキレやすい性格も活きていないし、そういう端々の処理での甘さが、手馴れていないように思えてしまうのだなぁ。

しかしながら。繰り返しになるが、全体としての印象は悪くないのだ。上記の不満も、もしかしたら、自分の独りよがり的な意見でしかないかもしれないしね。まあ、いろいろな見かたがあるんだなぁ程度に思ってください。

七不思議の作り方 Book 七不思議の作り方

著者:佐竹 彬
販売元:メディアワークス
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2006年11月 5日 (日)

天国はまだ遠く

遅れてきたモラトリアムな「お休み」。それを無為に過ごすことで得るものは、大それたものではなく、明日も頑張れるかも程度のエネルギーだが、しかし次の一歩を踏み出すのは、そんな小さなエネルギーで十分なのだ。そのための一休み。それは何もない田舎だからこそ、見い出すことができたのだろう。

こう云っちゃ否定的に捉えられてしまうかもしれないが、あえて書くと、べらぼうに面白いわけでもなく、さりとて読むのがつまらないわけでもない、そんなさりげない物語であった。そういう空気感の話が意味を持つときもあるのだ。手垢がついた表現をすると、人生のサプリメント的な物語。なんとなくTVドラマ的だなとも思った。

個人的には、ヘンに恋愛系に話が流れていかないのがいいね。あと田村さんの屈託がばっさりカットされているがそれをあえて描かない点についても好感を持てた。

天国はまだ遠く Book 天国はまだ遠く

著者:瀬尾 まいこ
販売元:新潮社
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「指紋の神様」の事件簿

一般論ではあるが。かつて専門家だった高齢の者が書く文って、専門外の部分についてきちんとした知識も曖昧なまま独りよがりの思いを熱弁してしまうことが往々にしてある。本作も冒頭前文に、そんな傾向があって、「あ、失敗したかなぁ」と思ったものだが、本文では指紋鑑識に関する様々を端的な文で紹介していく。面白い。自分としては、もっと事件簿的な内容が混ざってきてもよかったように感じたが、これはこれで悪くはない。

以前、韓国でコインロッカーを使用したとき、指紋認証形式だったのでちょっと新鮮だったのとともに、機械的認識のシステムに若干の不安を感じたりしたものだが、問題がないからこそリリースされているのだろうし、なにより「SF、来たか!」みたいなワクワク感が楽しかった思い出がある。

日本では、とりあえず、PCや玄関の認証システムから普及していくのかなぁ。

「指紋の神様」の事件簿 Book 「指紋の神様」の事件簿

著者:塚本 宇兵
販売元:新潮社
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自転車少年記

自転車が常に人生と寄り添っている。そんな物語である。けして突出したものではなく、誰でもが体験しうるごく普通の人生ではあるが、そこにある成長は、読む者にポジティブな感動を与える。
語り口が熱いようで、それでいてさらりとしており、清々しい。あるいはそれは自転車が風の乗り物であるせいかもしれない。

まあ、単純にビーパルっぽい話だなぁ、という感じもあったりするんだけれど、単純にそんな仕掛けに騙されて、自分も自転車に乗りたくなった。どっかに遠乗りしたくなった(でもタイヤを替えないといけないんだよなぁ)。

自転車少年記―あの風の中へ Book 自転車少年記―あの風の中へ

著者:竹内 真
販売元:新潮社
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