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2006年9月18日 (月)

トキオカシ

基本的に文章がヘタではないのだけれど、なんか書きっぷりがアンバランスな感じがする。書き込むべきことを書き漏らし、書く必要のない瑣末に注力したりする。文章構成の居心地の悪さ。なんかね、けしてダメといえるだけの悪文ではないのに、なんか引っかかってしまう。

どのような物語も多かれ少なかれ、ステレオタイプ化は起こり得るものだが、それを文章力や構成力で読み物としてのオリジナリティに昇華していくものだと思う。エンタテイメントとしてよりゲーム的要素の強いライトノベルは特にそれが作品のでき不出来につながっていくのだ。その意味において、この作品は、アイディアとしての新鮮味もあるし、自己の主張があるとは思う。
が、ところどころに気が抜けたように段取り化してしまうのだ。
例えば。時置師に関する設定は面白いのだが、しかしかなり複雑なのだ。それは別にいいのだが、その説明がいきなり延々と続いたりする。また展開についても、村の老人から情報を得てイベントが発生するというようなRPGゲームのフラグ立て的な印象が非常に強い。そうなのだ、結局、ゲーム的なのだ。段取りになっているのだ。

さらに、今まで書いたことと相反してしまうかもしれないが、作者は文章が上手ではないと自分は感じた。必要なことを書かず不必要なことを冗長に書いているように思う。
例えば、会話文で高校生が「存命している」というような云いかたをするだろうか。この作家は無意識的に漢字を熟語漢字を使ってしまう傾向にあり、それが、文章の流れの硬さ、違和感につながっている。
また、「受け身を取れずにしりもちをついた」という表現があるが、主人公は帰宅部であるという記述のみしかなく逆説的に運動能力素養はないととれる。にも関わらず受け身というテクニカルタームを使うということは受け身という技術を身につけているという意味を示し、キャラクター造形上のアンマッチを起こしている。普通に「転んだ」と書くだけでいい場面だと自分は思うだが。事ほど左様に不要な部分の記述に力を注いでいるように読めるのだ。
逆に人物造形は雑で、ヒロインがツンデレ設定なのかもしれないが、中途半端で性格がようわからない。主人公も然りで、内省的なようで、ヘンなツッコミをするし、登場人物全員がどうもキャラクターは安定していない。

これは推測なのだが、あとがきが好きと書いていることからも、作者は筆がどんどん進むタイプの書き手なのだろう。しかしそれは、ともすれば筆がすべる。こぼれる。という全体の目配りが欠ける可能性も大きくなる書きかたなのだ、と自分は思う。もっと整理してほしいな、と思う。せっかく面白そうなアイディアを見つけ出したのだから、ヘンにライトノベル的迎合をするような修飾はカットして、シンプルにいってほしいなぁ、と思うのだった。

トキオカシ Book トキオカシ

著者:萩原 麻里
販売元:富士見書房
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