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2006年8月30日 (水)

こどものじかん(2)

小悪魔的な少女に翻弄される新任教師と書くと思いっきりエロエロな感じ。でもって、実際にそういう話ではあるんだけど、ね。表現の違いということもあるのだろうけれど、それよりも表現の目的が、心情なのか扇情なのか、という点によって受け手の捉え方も変わるのだろう。と、もったいぶったわりにはあたりまえの感想を書いてしまったが、そういうことである。作者自身、確信犯的に幼いエロスを用いているし、それがマンガの目的でもないのは判るので、ズルイなあ、とは思う。もちろん誉め言葉ではある。

しかしね。本来、自分は人の生き死にでは心を動かされることはないのだけれど、本巻でのそのエピソードについてはちょっとツボにはまってしまって、少しだけ鼻の奥がツンとしてしまったよ。たぶん、それは死に対する反応ではなく、想いが残っていく、想いがつながっていく、そのことに対して、キタのだ。

これからどういう話になっていくのか、わからないが、いろんな意味で楽しみではある。

それにしても、宝院センセイはいいね! 自分ツボですよ。渦々しちゃうッス。

こどものじかん 2 (2) Book こどものじかん 2 (2)

著者:私屋 カヲル
販売元:双葉社
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2006年8月28日 (月)

ヴィンランド・サガ(1)

未来の次は過去の物語ですか。自分としては、SFマインドを描ける人には正調SFを描いて欲しかったなぁ、と思わないでもないが、まぁ、それはおねだりですからね。
熱くて無骨なヴァイキングの物語ではあるが、作者らしい冷めた視点は感じられて、そこらへんは既出の他作品との差になっているな、と思う。まだ、出だしなので巻を重ねるごとに方向性もみえてくるだろうし、完結後にこそ感想を云うべきなのだろう。ゆえに、今は、単純に表面的な感想にとどめておくことにする。

しかし、こんなにハードな物語(ストーリーとして、ということでは、ない)を少年誌で連載ってのはすごいなぁ、と思うね。アフタヌーンとか、もっとディープなマンガ読みを対象とする雑誌にふさわしいような気がする。まあ、案の定。なんだけど。

ヴィンランド・サガ 1 (1) Book ヴィンランド・サガ 1 (1)

著者:幸村 誠
販売元:講談社
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2006年8月27日 (日)

りえちゃんとマーおじさん

だーいしーっぱーいっ!

空腹時に読んじゃったんですわ。いやもう辛いのなんのって、口ん中、唾液でだらだらですよ。中華料理好きとしてはたまらないでしょ? 美味い中華が食いたいなぁ。美味い紹興酒で心地よく酔いたいなぁ。とにかく、腹の減るお話であるということですよ。

もちろん、それだけじゃあなくて、ストーリーとしても、どこかほのぼのとしていつつも適度な意地悪が混ざり合っている、粋な感覚は南条作品の真骨頂。一言で云えば仙人譚の持つのどかさ、牧歌的な(?)雰囲気ということなんでしょう。

クライマックスのスラップスティック的な大騒ぎも楽しく、大団円の大宴会はひたすらに美味しそう。見事でもありちょっとだけ寂しかったのは、すとんと幕を閉じてしまう潔い終わりかたで、もう少しカーテンコール的に、さよならの気分を味あわせて欲しかった気がするのだけれど、まあそれもちょっとあざといし、このくらいのあっさりした終わりかたのほうがよかったのかなぁ。

ともあれ、不思議なお話好き、中華料理好き、は絶対に読むべし。ですね。ああ、中華食べてぇ~!

りえちゃんとマーおじさん Book りえちゃんとマーおじさん

著者:南條 竹則
販売元:ソニーマガジンズ
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蟲と眼球と愛の歌

さしあたって主要な登場人物(と超常能力)は概ね出揃い、新たな能力に対する闘い、というJOJO的ストーリー展開からの脱却が始まっている。つまりは「役者は揃った。クライマックスは近い」ということだ。

物語はさらに露悪的なまでに殺伐さを増していく。暴力的というよりは陵辱的。命を奪いあうのではなく、命を食らいあう。しかも、それらは身近な人間達によってなされるのだ。幾多のコンプレックスが絡み合い、吐き出されている物語なのだろうか、と推測するしかないのだが。

それだけの傍若無人な物語であるにもかかわらず、なぜか寂寥感、諦念が感じられるのは、そこにある成長痛のせいかもしれない。つまり自分は、この物語に対して、若さ故の過ち的な部分に魅入られているのだろう。

蟲と眼球と愛の歌 Book 蟲と眼球と愛の歌

著者:日日日
販売元:メディアファクトリー
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2006年8月25日 (金)

へうげもの(3)

いよいよもって話が、歴史が、時代が、大きく動き出していく。時代絵巻的マンガとしてはどんどん面白くなっていく。ただ、当初の物欲イェ~。なへうげもの達の奇矯の描写は減ってきており、その分、自分としては寂しさを感じ得ないのだ。

物語としてどうなっていくのかは判らないし、だからこそ興味津々なのだけれど、どうやら、粋と愚直の相克による日本の思想観を描き出す方向に進んでいきそうな予感がする。というかそうなって欲しいなぁ。と思うな。

へうげもの 3 (3) Book へうげもの 3 (3)

著者:山田 芳裕
販売元:講談社
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シックス・ルーン(1)

随分とエラソーな文章になってしまってすみません、なのだが。桜井亜美という作家の特質は、10代を生きる者の同時代性にあると思っている。ストーリー(設定)的にも、ガジェット(表現)的にも、その時代に生きる幼い男女の空気感を意識的にか無意識的かは判らないが、非常に重視している。それはデビュー作から一貫して変わらないし、今後も変わることはないのだろうな、と思っている。ジャンルでいえば、まさに成長痛小説。であるが故に自分は、この作家を追っているのだ、と思う。

で、そんな桜井亜美が書いたライトノベル。いったいどんなものになっているのかと思いきや、うーん、小説としては失敗なんじゃないかなぁ。ステレオタイプですらない、ものすごく段取りどおりに話が進むあらすじを読んでいるかのようだった。現実と非日常が共存するライトノベル的世界において、それをリアリティあるものにするには、登場人物が、いかに非日常を受け入れるかを、それなりに丹念に描く必要があると思う。多かれ少なかれそこには葛藤や混乱、コンフリクトがあってしかるべきだし、それを乗り越える姿を描くことで、登場人物に実在感を与えることができるのだと思う。

(実は、そんな段取りなんかしゃらくせえとばかりに暴走して強引に成立させてしまう手法もあるのだが、それはこの作者の資質ではないなぁ、という前提ですよ)

勝手な推測なのだが、ライトノベル的な部分については、作者自身に思い入れはなく、編集者なり識者なりのアドバイザーがいて、それに引っぱられて書いているのではなかろうか。

さて、とはいいつつも、10代の心情を時代の風俗を描き出す作者ならではの表現力は健在であり、それはさすがだなぁ、と思う。あとは、虚構の世界を寄り添わせることができれば、この話も大きく化けるような気がする。

シックス・ルーン〈1〉星ヲ守ル者たち Book シックス・ルーン〈1〉星ヲ守ル者たち

著者:桜井 亜美
販売元:ソニーマガジンズ
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2006年8月22日 (火)

十三番目のアリス

あまり感心しないなぁ。殺人兵器少女の超人戦闘アクションで、ゴスロリ、ツンデレ、純なラブラブ日常風景という、まあなんでもありな話ではあるが、つまりはライトノベルのお約束の順列組み合わせになってしまっている。云い換えると、ステレオタイプってこと。

あとがきに、編集のアドバイスで日常風景を追加とか書いてあったけれど、自分的には、かえって悪い方向にリライトされているんじゃないの? としか思えない。ここからは完全な推測なのだが、はじめは少女が殺しあうだけのもっと殺伐とした話だったのではなかろうか。JOJO的能力の顕現あたりの書きっぷりは、オリジナリティはないけれど、それなりにパワーが感じられるし、だからそこらへんが作者自身が一番表現したかったことなのだろうと思うのだ。だったら、その殺伐さを追求しちゃえばいいじゃん、と思うのだが、やはり今の売れ筋にするためには、突出した部分を叩いて、安パイの定食に仕立てないといけないということなんだろうかね。

思ったのだけれど、ライトノベルとは(かつての)香港映画なんだね、たぶん。笑いあり涙あり、恐怖もアクションも、エロティックもなんでもアリアリのごった煮的な仕立てで、多少辻褄が合わなくても、喜んでもらえればそれでよしとする。そんな感じ。まあ、それがダメだというわけでもないのだけれど、全てがそんな定番だけになっちゃうとジャンルとして疲弊しちゃわないかなぁ、余計なお世話の危惧をしてしまうなぁ。

ともあれ、作品としてまったくダメというわけではない。つまらなくはない。この手の話を楽しめる人も多いだろう。しかし自分は(別の新作なら読むけれど)続編を追う気はないです。

Book 十三番目のアリス

著者:伏見 つかさ
販売元:メディアワークス
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2006年8月21日 (月)

神様が用意してくれた場所

ミステリーには「日常の謎」というジャンルがあるわけですが、幻想小説のジャンルにおいても、そういう切り口があってもいいだろうし、現にあるよね、というのが最近よく思うところなのですが、本作はまさに「日常の謎」ファンタジーでした。まあファンタジーというやや手垢のついてしまった単語がふさわしいのかどうかは、別として、市井の人たちの日常の生活の中にある、ちょっとした不思議を切り取って、物語にまとめ上げる。しかも、都市伝説的にネタを放り投げて不安な感じで終えるのではなく、きちんと起承転結をつけた「物語」として表現する。そこに描くのは、不思議ではあるけれども、実は本当に描いているのは人の心の機敏である。これぞ、日常の謎の本質であろうと思うのです。

本作は、連作を通じて、さらに主人公のヒロインが、少しずつ成長していく姿も描かれており、読後の清涼感が実に心地よいものでした。

あえていうなら、最終話で、あからさまに能力を表現してしまうのは、どうかなとは思いましたが、それは些細な個人的な好みなので問題ではないでしょう。反対に一番気に入ったのは第3話のすれちがう話で、「不思議」と「日常」の差が実に絶妙で見事だなと思った次第です。

一応、ライトノベルレーベルで出ているのでカテゴリーはライトノベルとしましたが、実際は良質のジュブナイルでした。続編を期待してしまいます。

神様が用意してくれた場所 Book 神様が用意してくれた場所

著者:矢崎 存美
販売元:ソフトバンククリエイティブ
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ここは魔法少年育成センター

別にダメじゃないんだけど、なんか釈然としない話でした。それは「物語」としてではなく、書きっぷりの面から感じたのかもしれません。

例えば前半部、主人公がヘンにひねた自意識過剰で理由もなく鬱屈している書きかたになっているのは、お話として吸引力を多分に殺いでいるように思います。もちろんそういう書きかたによって成立する話も少なからずありますが、この物語には、それは似つかわしくないように思います。戸惑いはあっても、それを他者への非難や排他的な精神状態に持っていくのはどうか、ということです。おそらく中盤での、主人公の心の変化につなげたかったのかもしれないのですが、あまり効果はあがっていないように感じました。

また、これは好き好きなのかもしれませんが、時事ネタを散りばめることによる同時代性、共感性を感じさせようとするのは、風化劣化が激しくて諸刃の剣なのですが、このようなその時代を切り取ることに意味/意図がない小説の場合、中途半端に時代がずれるとかなりさぶいものになってしまうのです。あまり頻繁に流行りモノを書き込んでしまうと、単に読者への媚にみえてしまいさぶさがさらに増してしまうのですね。

言葉遊び的なネーミングセンスは、基本的には嫌いじゃないんですが、そのおふざけ感と、語り口の重さとのアンマッチも気にかかるところです。

いずれにせよ、再刊の小説ですし、そこらへんは割り引いて読んではいるのですが、まあ、ちょっとねぇ。という感じでした。悪くはないんですけどね。

ここは魔法少年育成センター Book ここは魔法少年育成センター

著者:久美 沙織
販売元:ソフトバンククリエイティブ
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2006年8月20日 (日)

オオカミさんと七人の仲間たち

合法非合法を問わず、ヘンな活動を行う部活動を描く小説を、部活小説と呼称したい。既存作品で典型的な部活モノの例としては、(マンガだけど)光画部(by究極超人あ~る)であろうし、最近では階段部(by学校の階段)を挙げることができる。あるいは(映画だけど)男子シンクロ部(byウォーターボーイズ)もこの系譜に入るといってもよいだろう。
部活小説の定義において重要なのは、その活動が現実にある一般的な部活の範疇には収まりきらないことだと考える。つまり本来ありえないバカバカしい設定を、もしそれが成立するならばどういう状況が派生しうるのか、というシミュレーションがキーポイントとなるのであり、そこに新機軸が生まれるのである。また、これは結果的にそうなってしまうのかもしれないが、押し出しの強い濃いキャラが集まることになるため、必然的にアッパー系のスラップスティックな小説となりがちである。だからこそドライブ感が生まれ、読んでいてその勢いを楽しむことができるのだ。
ともあれ、部活小説の具体的な定義の検証については、あらためて行うつもりではあるが、いわゆるスポ根モノとも青春モノとも微妙に異なるバカだけどピュアな暴走モラトリアムを堪能する小説であるということだ。

さて。本作だが、実にライトノベル的な童話モチーフの部活小説だった。キャラ設定優先でストーリーが後付されていったのであろう。予想外の展開に翻弄されるということはなかったが、その分安心して楽しんでしまった。本来、自分は、こういったキャラ萌え至上主義ライトノベル的コンセプト小説についてはかなり否定的な意見を持っているのだけれど、なぜか比較的素直な気持ちで読むことだできた。それは、(いい意味で)アホな設定とくだらないストーリーではあっても、文章表現的には、実はそれなりに落ち着いていて適確な文体で読みやすく、いやみがなかったせいでもあろう。ということは、普通の文章を提供できるということは実はすごい才能なのだ。と思う。

まあ、最終話の少々マジが入ってしまう部分については、ちょっとテレが入ってしまっているようで、そうじゃなくて最後の最後までバカで突っ切って欲しかったなぁとも思ったが、そこは筆が走りすぎたということで、まあいいか。あと、ちょっとだけ引っかかったのは第2話で性に対してあまりにもオープンだったこと。現実はそうだったとしても、小説はあくまでも幻想なので、特にライトノベルという分野においては、もっと婉曲であって欲しかったなぁと思わないでもない。

というわけで、多分「これは違うよ」といわれてしまいそうだが、自分としてはけっこう満足している。

Book オオカミさんと七人の仲間たち

著者:沖田 雅
販売元:メディアワークス
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2006年8月15日 (火)

トリックスターズM

注意! ミステリーの解を連想させる言及があります。

今回はちょっと小ぶり。でもいったん面白いという刷り込みをされているため、十分楽しめてしまいました。

ミステリーとしては、シリーズ全体を通して叙述トリックによる詐術で読者のミスリードを誘うタイプであるということが判っているので、書かれた一言一句を疑ってかかったせいか、予知された被害者が誰だったのかは想定範囲内だったし、そこから導かれる次の一手も予想どおりだった。そういう意味では安易なミステリーであったということになるのだが、しかし、根幹のアイディアである「フーダニット」も「ハウダニット」も判っていて、被害者が判らない、という。倒叙的設定がとんでもなくてステキ。基本的に突拍子もないアイディアに弱い自分としては、それだけで、いいじゃん、って思うのだなぁ。

次回、いよいよクライマックス。期待大。

Book トリックスターズM

著者:久住 四季
販売元:メディアワークス
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2006年8月13日 (日)

ABARA(上・下)

物語のジャンルとしては最終戦争モノ、終末モノ。になるのだろうか。世界が一瞬で崩壊していく姿を
アンチドラマティックに描いている。重要な登場人物が容赦なく死んでいく。物語としての盛り上げのセオリーからは若干外れた冷静さがある(ストーリー自体は荒々しいのだけれど)。

寄生体による超人的な力とモンスターとの闘いという、ありがちな設定を、面白くしているのは、説明がないこと。これにより、寓意的、神話的な雰囲気を醸し出している。もちろん、言葉の選択が既存的ではない神話を励起させる点もあるだろう。さらに、設定などが最後の最後まで一切説明されず、一気にカタストロフに突き進む。結局、原因も結末もなく、大きな神話の最終部分の断片を絵に起こしたという感じなのかもしれない。

絵的な設定としてはギーガー調のモンスターであり、そういう意味において映画エイリアンの前史的な読み解き方をしようと思えばできるし、世界崩壊と魔人という設定からデビルマンとの類似性を見い出す事もできるだろう。それもこれも説明がないせいでもあるのだが、そんな比較論的な観かたをせずにひたすら絵ヂカラを堪能するべき話なのだろうと思う。

ABARA (上)     ヤングジャンプコミックス Book ABARA (上)     ヤングジャンプコミックス

著者:弐瓶 勉
販売元:集英社
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ABARA (下)     ヤングジャンプコミックス Book ABARA (下)     ヤングジャンプコミックス

著者:弐瓶 勉
販売元:集英社
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西城秀樹のおかげです

渦QUEeeeン!!

エロエロだねっ。大バカだねっ! 品性下劣な自分としてはこういうバカ小説は大好きです。ほのかなエロスじゃなくて、そのものズバリなえげつなさがね、タマランです。正直反応しちゃいますなぁ。どこが? そりゃ身体がさっ。

一番、面白かったのは「テーブル物語」ですが、これが一番SFらしくないんだよなぁ。

しかし、この饒舌作者、万年躁状態なんですかね。

西城秀樹のおかげです Book 西城秀樹のおかげです

著者:森 奈津子
販売元:早川書房
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2006年8月12日 (土)

つきのふね

青春小説という言葉から連想させる「さわやかさ」や「すがすがしさ」、「希望」や「未来」といったポジティブかつ陽性のニュアンスが自分としては好きではない。むしろ苦悩や苛立ちこそが、青春期の人物を中心とした小説こそが、自分にとっての魅力ある物語なのであるが、それを、青春小説という安直な言葉で表現すると自分の求めるものとのギャップが生じてしまう。ゆえに自分は、そういう痛みをもつ小説を、成長痛小説といいたい。

で。本作は、まさに成長痛小説だった。悩みを抱えた登場人物たちがその悩みをどう折り合いをつけていこうとするのかを模索していく物語である。そこに直接的な救いはまだないのだけれど、いつかは。という予兆をもったエンディングは、クライマックスの盛り上がりも含めて、非常にウェルメイドなくせにソリッドなテンションを持っている。それが自分には響くところがあったのだろう。本気で涙ぐんでしまった。

つきのふね Book つきのふね

著者:森 絵都
販売元:角川書店
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2006年8月 9日 (水)

水木しげるの日本妖怪紀行

妖怪解説書のような妖怪エッセイのような、あるいは妖怪探索ガイドのような、曖昧なポジションの、それこそ妖怪的な本で、曖昧な分だけ、機能としてはどれも帯短襷長なのだが、そこがいいのだなぁ。と思った。うだるような夏の夜のナイトキャップ的な読み方が楽しめる本であろう(夢に出てきそうだけどね)。

しかし、自分はあまり妖怪に詳しくないんだけど、と思いつつ読んだのだけれども、意外と「あれ、これも知ってる。聞いたことある」みたいなヤツが多くて、いろんな本を読んでいるうちに結構刷りこみされているのだなぁ、と我が事ながら感心してしまいました。

あと、自宅近所にも妖怪スポットがあることが判って、おお! と思いましたよ。近いうちに行ってみよう。昼間にだけど。

水木しげるの日本妖怪紀行 Book 水木しげるの日本妖怪紀行

著者:水木 しげる,村上 健司
販売元:新潮社
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バッテリー(2)

(これは別に本作に限っての話ではなく子どもを登場人物とした話には常につきまとう印象として)主人公をはじめとする登場人物は、中学1年生なのだが、中1のメンタリティやものの考え方って、こんなんだったのかなぁ、と思ってしまう。自分自身、もはや自分の子ども時代について思い出せないので、今の子どもをみて第三者的に推察するしかないのだが、この物語で書かれているように深く考えているのかなぁ、と思ってしまうのだ。そりゃ、「ものがたり」だから、大人視線での内容になっていくのは、当然なのだが、それにしてもちょっと成熟しすぎているのではないかな、と思ったりする。
反面、ほんのかすかな記憶をたどって自分の子ども時代を思い返せば、今とさほど違いはないような気もするし、つまりは、よくわかんないよな、そこんとこはさ。という逃げ的なまとめにしてしまうのだけれど。

それはそれとして、物語自体はやはり面白い。総括的な感想は最終巻読了後に!

バッテリー〈2〉 Book バッテリー〈2〉

著者:あさの あつこ
販売元:角川書店
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2006年8月 6日 (日)

ヒッカツ!(3)

いよいよ、話に勢いがついてきたと思ったら完結です。せっかく面白くなってきたというのに残念。一般ウケしなかったのだろうか、はたまた、元から3巻と決めていたのか、は、判らないけれども、自分はもう少し続いてほしかったなぁ。

基本的にロードモノ、又旅モノって、好きだし、この手の話が楽しくなるのって愉快な仲間(笑)が揃ってからじゃないですか。せっかくメンバーが揃ったところでおしまいというのは、ねぇ。もっとも、まだまだ旅は続くよ的なおわりかた自体は余韻があって嫌いじゃないんだけど。

ともあれ、次回作、期待しますよ。シモネタ満載で、ひとつ。

ヒッカツ! 3 (3) Book ヒッカツ! 3 (3)

著者:矢上 裕
販売元:角川(メディアワークス)
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2006年8月 5日 (土)

佐藤家の選択(1)

あとがきで編集が、SFだなんだと云ったと書いてあったが、どこをどう読めばこれがSFになるのだ? 読めてないじゃん、ネタ? 理系っぽいからSFなのか? いや数学って厳密には理学じゃないし。ふんとにもう。でも、じゃあ、ファンタジーですかっていわれるとそれも違うと思うし、この物語っていったいジャンルでいうとなんなんでしょう。多分、娯楽。エンタテイメント。そういうノンジャンルなんだと思う。
自分の答えとしては「これはライトノベルというジャンル」なんじゃないかと考えている。最近、特に思うのだが、SFがジャンルであり手法であり哲学であるという輻輳的な構造を持っているのと同様にライトノベルもまたそれでひとつのジャンルなのではないか。そんな考えが頭から離れない。もっともまだ体系的に説明できるほど考えを詰めていないのだが、そういうみかたもあるかもというのは、ひとつの眼鱗だったのでちょいと触れてみた。が、それはそれとして。

本作である。いや予想外に面白かった。人物造形もストーリー展開も典型的なライトノベルなのだけれど、算法という大ネタの直球勝負で、ぐいぐい押しきられてしまった。高度な数学は、定理であり哲学であって故に単なるクイズの答えではなく真理の表出、イコール、チカラである。というのは直観として理解できるし、面白い。
典型的な人物設定といってしまったけれど、父親や妹、内弟子の「実は。。。」という広がりも、ああ、なるほど! とかなりいい感じの奥行きがあるように思う。また、多分、話の展開に無理がないのだろう。必要以上に広げず、こじんまりとまとめず、ちょうどいい塩梅。心地よい破天荒さってヤツなのだ。

あえていうべきとするならば、せっかく数字がらみのバカネタなのだから、もっと数字を前面に押し出してもよかったのではなかろうか。そのほうがきっちり3割5分1厘、バカさが際立つ蓋然性が高いと立証できるのだが。もっとも数学だから数字が必須ということはないし、むしろ証明とはロジックの組み合わせで数字がなくてもよかったりするのだけれどね。

もうひとつ、なにげに思いきりエロティックな表現がまぎれこんでいるのはいかがなものか。

ともあれ、かなり楽しませていただいた。次巻もそこそこ期待させてもらいます。

佐藤家の選択 1 Book 佐藤家の選択 1

著者:貝花 大介
販売元:ホビージャパン
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2006年8月 4日 (金)

12DEMONS

悪魔の能力を得た者たちが、能力を奪い合うというアイディアは、悪くない。正直、オリジナリティに溢れているかという程ではないが、展開次第では面白くなるはずだ。既存作品で悪魔といえば、今なら「デスノート」だろうが、それとは違った形で、悪魔に魂を売った者たちの殺伐とした緊張感に満ちた物語にありうる素材だと思う。と、いう感想を書いているということは、そうなってはいなかったということですがね。

まず、登場人物が皆素直なんだよね。あっさりと自分の悪魔の部位と能力を告白してしまう。それはどうですか? もっと疑心と権謀により相手の部位を見い出し、出し抜いていく頭脳戦が読みたかったんだけどなあ。それにもっと己の欲望をむきだしにしてもいいのではないだろうか。ほとんどが全員でもとの世界に戻ろうとしているっていうのはあまりにもいい子ちゃん過ぎるでしょ(逆説的にいかに自分が殺伐とした人間なのかってことですか? いやぁ照れるなぁ)

そして、12人も出しておいて全然活躍していない。と思ったら、こちらは次巻に続くだったのか。ということは完結編で上記不満も解消されるかもしれない。最終的な自分の感想は次回持ち越し。ということで。

12DEMONS Book 12DEMONS

著者:御堂 彰彦
販売元:メディアワークス
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2006年8月 3日 (木)

はじらい吸血鬼

自分の読書領域を広げるつもりで読んでみる(と云い訳しつつ)。

官能させられる、という一義的な役割については、これはこれでそれなりにアリか。とは思うが、ビジュアルで攻めてくるエロスが氾濫する昨今、文字によるエロスは単純なエレクションを目的とすべきではないかな。

そんな興奮するとかしないとかよりも官能小説の構造論について、興味深かった。つまり「初体験・年上・未亡人・人妻・多人数プレイ・同性愛」といった、行為に関するティピカルな要素がほぼもれなく描かれているのはバリエーションを入れていかないとページが埋まらないからなのかニーズに対するサービスなのかという設計構造についてであり、また、主人公がさえないデブが突然降ってわいた幸運(不運?)により急にモテキャラになる男性中心の充足願望主義的構造である。まあ、官能小説とはすなわち単純に娯楽主義的小説であることが必須であろうから、それも当然なのだ。
(男性願望充足主義的というのは最近のライトノベルでも氾濫していて、自分としては正直云って好きじゃないんだよね)

この本を選んだのは「吸血鬼」という多少なりとも、エロだけじゃなかろうという枠の広がりを期待してだった。その意味においては、ごくほんの少しだが、吸血鬼という種に対する解釈と、終末小説的なエンディングにおいて、描かれており、さらに、男は結局、身近な快楽に負けてしまうのだなぁという弱さがあり、なるほどねぇ。という愉しみかたはできたな。

しかしタイトルには偽りありだ。全然、恥らってねえじゃん(笑)。

はじらい吸血鬼(ヴァンパイア) Book はじらい吸血鬼(ヴァンパイア)

著者:睦月 影郎
販売元:双葉社
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2006年8月 2日 (水)

妖怪新紀行

とてものびのび書いているなぁ。既知の妖怪に対する一般認識(というものがあるのかどうかは別として)や、妖怪小説の通常のロールにしばられず離れすぎず、自由にホラをふいているなぁ、という印象である。妖怪を野鳥などの野生生物として捉える一種のパロディなのだが、それはそれでアリかな、と思う。

モラトリアム生活からの旅立ちというテーマもあるようにも読み取れるが、それは話を進めていく上でのギミックだろう。基本的には妖怪大好き、自分なりの妖怪譚を書こう、ということなのだと思う。全体的にも長い話ではなく、夏の夜のちょい怖い怪談的にさくっと楽しめた。

妖怪新紀行 Book 妖怪新紀行

著者:瀬川 ことび
販売元:角川書店
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