戦う司書と神の石剣
あまり他作品を読んでいないので、その認識がまったくの誤解なのかもしれないことを承知で語ってしまうが、戦う司書のシリーズが他の超人決闘モノと異なる点のひとつに個人のアクションではなく組織対組織に軸足あることだと思う。云い換えよう。(例えが古くてすまないが一般名称として認知されていると思うので)ウルトラマンに代表されるような個人対個人、あるいは、仮面ライダーに代表されるような個人対組織、による戦いではなく、組織と組織の抗争を描こうとし、その上に個々の戦闘があるという構造になっている。
自分の勝手な感想なのだが今回は特にそれが強かったような気がするのだ。それは話の発端が探索行からスタートし、それを妨害しようとする障害、組織間の暗躍などという展開が、エスピオナージの香りを醸し出していたからだ。というと云い過ぎだろうか? とにかく自分はそう感じたのだ。
もっとも中盤からミレポックとアルメの物語となっていき、当初の印象から大きくずれていってしまうのだが、それはそれで面白かったのでよしとする。そしてラストに再び冒頭の組織の物語へと回帰していくということで、2つのタイプの物語を楽しめたといえばよいのだろう。
設定上、そうならざるを得ないのかも知れないが「本」という存在が普通の探索をありえないものとしているのが非常に興味深い。つまり謎を捜査していく場合、当事者の本を発見すれば、ほぼ確実な真相を得ることができるのだ。よって調査はひとつひとつを積み上げていくのではなく、本を探すというその一点にのみにかかってくるのだ。また、作文のテクニカルな面でも、本を読むことで、過去にあった事象や他人の視点をそれなりに違和感なく描くことができるというメリットがあるように思える。そのような視点の移動や時間軸の移動は、あまり無自覚に書いてしまうと単に読者を混乱させるだけのだが、その点においてこの作者はうまく処理しているように思う。
エンディングにおいて新たな展開が暗示されている。おそらく次巻はまだ全然違うタイプのストーリーになるのではないだろうか。そのような常に変化していこうとする感覚は好きだ。というわけで、かなり期待している。
戦う司書と神の石剣 著者:山形 石雄 |
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