百万の手
注意! 文中に本作の根幹に関わる記述を思いっきりしております。
全体的に分断感があるというか、設定の食いつぶし感があるというか。前半と後半で話を動かす動力が変わってしまっている。もっと具体的に云えば、死んだ友人がケータイに憑依するという設定が全体のストーリーに対してなんら効果を発揮していない。特に後半、まったく伏線にもなっておらず、なんのために全体の流れを崩すような設定を導入したのかよくわからないのだった。
また、根幹となるミステリーにしても、受精卵移植がどうのこうのという設定はいかにも中学生の突飛な発想で、普通ならばそれはミスリードへのフックでしかなく、もっと常識的かつ論理的な真の謎に結びついていくほうというような流れとなるのだろうけれど、まさにそれが真相だったりするというリアリティのブレにちょっと疑問符を感じた。もっともそのあと、さらにクローニングにまで話が広がってしまい、当初の突飛さは薄れてしまっているのだが。まさかそれがねらいだったのか?
フーダニットやホワイダニットについて、それが打算的な欲望によるものではなく人類の未来のためということについては、視点の変化、相対化が感じられてけっこう好感度が高い。そして、その考えも実は歪なのだと吹き飛ばしてしまえる健全な感覚もしっかりと描かれていて、なにより鬱屈がないのはいい。
とそんな感じの話なのだが、とにかくキャラクターやエピソードの描きかたに浮ついた感じがなく、リーダビリティがあるため、ややネタの詰め込みすぎのきらいはあるが破綻している感じはない。てなわけで楽しく読むことができたっす。
百万の手 著者:畠中 恵 |
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