トリックスターズ
まんまと騙された。
本格と称されるミステリとして分類するならば、前提からして卑怯であろう。事件に対する推理展開をしていく上で「魔術がある」という前提で、しかも「魔術は万能ではないといいつつ、なにが万能であるのかないのか」があらかじめ提示されないというのは、本格ミステリとしてはありえない構造である。推理とは一般的な常識を背景にして可能と不可能を判断していくわけだから、判断根拠を持てない以上、推理なんかできないのだ。普通は。
と、云いつつ、提示された(問われた)7つのトリックに対しては、確かに読んでいて、記述上のフック(ヒント、あるいは伏線)には気づいてはいた。が、最終的な構造についてまでは、さすがに読みきれなかった。それは魔術という設定のせいでもあるし、ストーリーに関係ない謎が含まれるせいもあろう。すべての謎は事件のために存在するわけではなく、登場人物に対してではなく直接読者に対する挑戦である。メタミステリ化されている。それを卑怯な詐術ととるか叙述な挑戦としてとるか、人それぞれだろう。
具体的には、7人と6人の謎については、読めた。それはストーリーの根幹にかかる部分でもあったから。しかし、その人物に関する仕掛けまでは読めなかった。確かに、ヒントはヒントとしてわかっていたんだけれどな。
総じて、小説としては若書きでもあり、荒っぽさ、雑さは否めない。が、リーダビリティは確かに感じた。なにより、自分がまんまと罠に引っかかってしまった時点で負けを認めなければいけないだろう。楽しめた本である。
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トリックスターズ 著者:久住 四季 |
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