神はサイコロを振らない
注意! 感想文中、話の結末がわかる可能性ある言及をしています
マイクロブラックホールに捕われて10年後にタイムスリップしてしまった乗員乗客と、普通の時間軸で生きてきた家族達との束の間の逢瀬の物語。リーダビリティの高いエンタテイメントとして結実している。よかった、面白かった。
設定は一応SF的ではあるが、いわゆるSF小説ではない。これが(狭義の)SFならばタイムパラドックスにチャレンジしたりといったロジカルな快感を狙いに行くのだろうが、ここでのSF的設定はあくまでも死んだ家族が帰ってくるという状況を生み出すための仕掛けでしかない。つまりはお盆に死者が帰ってくるというのと変わらないのだが、なんとなく科学的な理屈がついていることで、作中の人々が、帰ってきたことにリアリティを得るためのエクスキューズとして機能している。
で、この話のツボは、そういう状況において人々はどう過ごすのかというシチュエーションドラマであろう。結末はけしてハッピーエンドではないが、清々しさが残るのは、登場人物たちが皆、精一杯できることをしよう、思い残すことなく生きることが大事なのだ、ということを全員が体現しているからだと思う。読みようによっては、あまりにも悪人がいないことにウソくささを感じるかもしれないが、そのくらいのファンタジーはあってもいいのではなかろうか。
ところで、これはSFじゃないと上述したが、実はラストにおいてまさに時間テーマSFのロジックの伏線があった。物語の本流を占めるエピソードではなく、あくまでもサイドストーリーのひとつなのだが。それにしても、刑事ドラマから純愛ドラマ、人情ドラマまであり。で、なんて盛り沢山な小説なんだろう。
(ところで地方行政って、そんなに硬直した組織じゃないし、逆に末端もあんなにアバウトじゃあないぞ。ま、心意気的なところはあんな感じかもしれないけれどね)
神はサイコロを振らない 著者:大石 英司 |
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