2008年6月22日 (日)

荒野

大人になる直前の少女の恋はあまりにも不安定である。危うい。主人公荒野はそんな中、荒野を進むように自らを律し、大人(通俗的な意味ではなく)を目指す。読み通してみて意外と一途でそして挫折していない。まあ不必要にもめることもないのだけれど。

少女小説というよりはむしろ少女マンガ的。ただなぜそう感じたのかは自分でもよくわからない。

個人的にはマイノリティの恋を選んでしまった江里華にこそその恋を成就してもらいたかったのだけれど、ね。

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荒野 Book 荒野

著者:桜庭 一樹
販売元:文藝春秋
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2008年2月22日 (金)

夜を守る

まあ石田衣良作品の常として、基本的に水準はキープしているわけで、読んで大きな不満というものはない。エンタテイメントとして十分、楽しむことができた。

ということを前提にして、だが、物語の設定としては、ストリートの素人トラブルシューターの物語という構造となっており、IWGPと大差ないだろう。つかず離れずに組関係なども絡んでくるところも同じっちゃ同じ。違いといえば、マコッちゃんたちが非合法すれすれのハードボイルドな戦い方をみせるのに対し、アメ横ガーディアンズたちは「無理をしない」というところにあるだろうか。もちろん、それは素人たちの戦い方としては実に真っ当で、なるほどな、と思うところではある。そして、そのような差異を設定することで、他作品との違いをつくろうとしているのか、とも思う。
ただ、ここまで似通っている(わけでもないのだけれど)物語であるのであれは、読む側としてはいっそハードボイルドであってくれよ、と思わないでもない。であるが故に、隔靴掻痒の気分は否めない。ということなのだ。

まあ手の早いストーリーテラーとしては、どうしても似た傾向の作品を書くことも多くなるであろうし、色付けの工夫もあるので、読み手の勝手な希望をいうつもりはないけれど、なかなかに、ね。難しいですね。

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夜を守る Book 夜を守る

著者:石田 衣良
販売元:双葉社
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2008年2月12日 (火)

先生と僕

相変わらず上手い語り口で一気に読むことができる良作であった。
ということを前提として、いつもの坂木司作品とは若干のテイストの違いがあるように感じた。とはいってもすべてを読んでいるわけではないので、たまたまなのかもしれないが、作者の作風は「日常の謎」をいうジャンルコンセプトをベースにしつつ、しかし実際に描いているのは、世話物的な物語であった。それはやもすれば説教臭さが鼻白むくらいの人情話であるといってもよいだろう。
が、本作においては、そのへんの登場人物たちの関係性をメインにすえるのではなく(もちろんしっかりと描いてはいるが)、ミステリーであることにより真摯に向かい合っているように感じたのだ。それは作品のコアとなる部分が、古典的ミステリーの紹介とオマージュに深くコミットしているからだろうが、その結果、作風にある程度の新鮮味がでるのであれば、それは好ましいことだと自分は思う。

といいつつ、若干の不満を云わせてもらうと、事件自体が、万引きや不法建築、盗撮などといった日常的な事件ではあるが、現代の生々しい面を切り出しているところだろうか。ホームズ役はコマシャクレタ(?)中学生であるというのが理由でもないのだけれど、もう少しやむにやまれぬ、というか、事件ですらない「謎」であるための謎であってもよかったのではないか、とも思うのだ。
また、推理は推理として、それはイコール真相でなくとも物語りは成立するわけで、名探偵は常に真相を明らかにできなくても、この物語においてはそれはそれでいいようにも思う。
ま、でもあえて云うならば、であって、これらば重大な問題ではない。些細な瑕疵ですらないかもしれない。あくまでも、重箱の隅をつつくと、というレベル。

ともあれ、数時間を有意義につぶすことができる本であった。

ちなみにあげられていたミステリー作品ですが、自分は3勝2敗でした。高確率なのかどうなのか判りません。あと、そうそう、ワトソン役は誕生日いつなんだ?

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先生と僕 先生と僕
販売元:セブンアンドワイ
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2008年1月22日 (火)

夢をかなえるゾウ

面白いといえば面白いのだけれど、いわゆる「物語」というとらえ方で読むべきではない本だなぁ、というのが直感的な感想である。

ストーリーの構造が、起承転結というクライマックスに向けて何らかの盛り上がりをみせ、そして大団円、という動き方ではなく、主人公と神様の(ネタ的には突拍子もないが)フツーの生活があって、そして別れがあっておしまい、という、(悪い意味ではなく)なんとも平坦な日常的非日常が描かれているのである。
類似的に考えるとドラえもんやオバQのように、突然現れた異人との共同生活というモチーフなのだろう。描かれるべきは二人の相棒的な関係である。だから前述の類似例と同様、個々日常の中でのエピソードはあっても物語としてのダイナミックなうねりはない。結末らしい結末は単なる別れだけであり、一抹の寂しさと余韻が肝となる。そういう物語であるのだ。

そんな全体構造の中で、本書の個性となっているのは、神様ガネーシャの強烈なキャラクターである。関西弁ということもあるのだけれど、ぱっと思いついたのは松本人志なのであった。いかにも彼が言いそうなアホな発言の連発で、なるほど、これは小説というよりもコントなのだろうと思うわけだ。ここでいうコントとはその場その場のシュチュエーションを基点として笑いを重ねていくということだが、そう考えると、「物語」としての脆弱さも頷ける。

笑いのガジェットとして日々の課題があるのだけれど、これがまたいちいち胡散臭く、しかしヘンに説得力があるのが可笑しいわけだ。作者はこの点をかなり作為的に笑いシロ誘導するよう書いており、なるほどウケるためのテクニックを活かしているなぁと思う。

そんなわけで、これをファンタジー小説として単純に読むと正直浅いなとは思う。しかしファンタジー色の強いシシュエーションコントとしては実に楽しい。ラストの余韻がホロリとさせ、終わりよければすべてよしという気にさせられてしまう。作者のテクニックにまんまと乗ってしまった訳だ。

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夢をかなえるゾウ Book 夢をかなえるゾウ

著者:水野敬也
販売元:飛鳥新社
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2007年12月31日 (月)

芸術の売り方

ひさしぶりに読んだ学術系である。非常に面白かった。そして非常に手強かった。結局3週間くらいかかってしまった。まあその分、じっくりと書かれた内容を脳内で咀嚼することもできたし、それこそがこの本の正しい読み方なので、満足である。

芸術とひとくくりにしてしまうが、本書で対象とするのはクラシックや演劇を中心とする舞台芸術である。そして、それらの活動の場となる劇場の経営に関する検証と示唆が様々な視点からたっぷりと語られる。

前半のチケット単価と観客の来場意識に関する検証は実に刺激的。外部の人間がよくいうチケットを安くすればいいんじゃないかという意見に対し、現場のマネージャーが感じている高い安いが入場者の増減には必ずしもリンクしていないという現実とのギャップに、実際の現場検証という事実をもって明快に回答を出している。
また後半は、具体的な事例を元に現在の観客の意識変化にあわせての新しいネット活用や広告手法、会員制度のあり方についてアドバイスを出している。

実際のところ、海外の定期会員制度と日本のそれとはかなり違いがあるため、ここで書かれた内容をそのまま用いるわけにはいかないとは思うのだけれど、数値をもって検証し、実践に結び付けていくことが非常に重要だということは全世界に共通している。まあいっちゃなんだけどそれってマネジメントの基本なのだ。ただそれができているかというとまた別の話であり、そういう意味で、組織の意識改革に向けたいい勉強ができたな、と思う。

ところで、のだめでパリのオケで会員がどうのこうのと軽~く書かれていたエピソードについて、ようやくそういうことなのね、と納得しました。古典的な会員制度をとっているオケにとっては死活問題なんだね。なるほど。

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芸術の売り方――劇場を満員にするマーケティング Book 芸術の売り方――劇場を満員にするマーケティング

著者:ジョアン シェフ バーンスタイン
販売元:英治出版
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2007年12月30日 (日)

ナイチンゲールの沈黙

バチスタがめっぽう面白かったので手を出したのだが、びっくり。全然違う話になっている。前作が本格ミステリーの枠を保ちつつのエンタテイメントであるとするならば、本作は、キャラクター中心のミステリーエンタテイメントというべきであろう。

単純に登場人物が増えたということだけではなく、キャラクターに必ず二つ名がついており、それをもって特徴/能力/属性を補強提示しているというのが、まず一番大きな違いであろう。その手法は実はライトノベルにおけるキャラクター表現に近い。それがかろうじて通常小説に収まっているのはヘンな超常能力がないだけ、といってもいいかもしれない。
実のところ、このような表現を用いてキャラクターを立たせて物語を推進していく描き方をしている作品として筆頭に上げられるのは「京極堂シリーズ」だと思う。そういう視点で両作品を比べてみると、登場人物たちが右往左往しながら実に楽しそうに事件に向かいあっている(というか、事件を玩具にしている)雰囲気も、かなり近いものがある。

多分「ミステリー」として前作と同質の強度を保ちえるのは、よほどのラッキーがないとできなかったのだと思う。それはこの田口×白鳥シリーズに限らず、あらゆる作品についていえることだろう。そこで無理に同様の手法でシリーズを重ね、劣化していくよりは、少しずつ作品の求心力アイディア自体からキャラクター主体に方向転換することで、魅力の持続性を高めるというのは正しい判断であろうと思う。
もっとも、そのようなことができるのはもともと作品の登場人物に魅力があって、変化に耐えられるようになっていたことが前提であり、また作者の力量があってできることでもある。その点において、バチスタという作品はあらゆる方向性を内包していた作品だったのだなぁと思う。

さて、そんなこんなでナイチンゲールである。5W1Hがきっちり展開できていて作品自体は面白かった。事件発生まで間延びした感じもあって、多少、展開のバランスが悪いところもあるかなと感じたが、とにかく読み込ませるリーダビリティは健在で、ぐいぐいと読み進むことができた。

難点としては死体をバラすことについての禁忌感があまりにも薄すぎるのではないかという点だろうか。エクスキューズは一応書かれているが、ちょっと安易かなぁ。

ともあれ、次回作も当然楽しみにせざるを得ないことだけは確かだ。

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ナイチンゲールの沈黙 Book ナイチンゲールの沈黙

著者:海堂 尊
販売元:宝島社
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2007年10月26日 (金)

有頂天家族

面白き事は良き事なり。まさに至言!

(さほどに読んでいるわけでもないのだけれど)森見作品の中ではもっともファンタジー色が強く、またもっともDT色が薄い作品である。なんたって、狸と天狗と人間のお話だもんよ。そら、そうなるわな。

ここで描かれるのは家族の物語である。スラップスティックコメディではあるけれど、根底にある家族のつながり(生きていても死んでいても、だ)がしっかり描かれているため、単にバカバカしいだけではない読後感がある。

特に最終章に向けての大暴走的ドタバタ劇は、森見ならでは。大笑い。

実のところ、あまりにももったいなくて章を読むごとに、別の本をサンドイッチ読みしちゃったのだけれど、この本に関しては一気呵成に読む事をお勧めする。と書くまでもないか。

次巻が楽しみである。

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有頂天家族 Book 有頂天家族

著者:森見 登美彦
販売元:幻冬舎
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2007年9月16日 (日)

武士道シックスティーン

スポーツ青春小説として実に王道。王道というのは面白いからこそ王道なのである。青春小説って手垢のついた表現は本当にしたくないんだけれど、しかたがない。レッテルで面白さが増減するわけでもないし。

さて。

本書。面白いなと思ったのは主人公が、いわゆるリアルな女子校生ではないということだろうか。武蔵に傾倒しかなりヘンクツな問題児であったり、へらへら飄々と剣道を楽しんでいるおきらく娘であったり、マンガの登場人物くらいのカリカチュアライズがされている。そう、これは文章で書かれたマンガなんだろうなぁ、というのが読後の率直な感想であった。
活字マンガといえば、当然ライトノベルというジャンルを意識せざるを得ないのだが、では、本作はライトノベルなのかというと、それは断じて違う。でも何故そう思ったのか自問自答してみた。例えば超能力とか妖魔とか異世界とかそういうSF的な要素がないからかもしれないし、読者と作者の共有情報が閉じていないせいかもしれないし、しかしそれが本質的な違いではない。そう思う。もちろん、それだけではなく文体や構成といったテクニカルな点もあるのだろうし、結局のところこれはライトノベルとジュブナイルの関係とも相まって、もっとじっくり考えないとわからなように思う。そしてそんな時間があるなら、本を読むほうにあてるよなぁ、とも思う。というわけで、この件については問題提起まで。

ところで、ラストを読んで、一番先に念頭に浮かんだのは「帯ギュ!」であった。たぶん、そういう人は多いのではなかろうか。同じスポーツを続けていれば、離れていてもつながっている。それがときに同士であったり、またライバルであったりと立場は変わりながらも、つながっている。そうやって成長していく。そんな終わりだけど終わらない物語という筆の置き方が、ああ、同じだ。と思わせたのだった。そんな開かれた終わりが清々しさにつながっている。読んでよかったな、と思わせる。

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武士道シックスティーン Book 武士道シックスティーン

著者:誉田 哲也
販売元:文藝春秋
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2007年9月11日 (火)

響鬼探究

平成ライダーシリーズはどれも概ねフォローしてきてはいるが、響鬼に関しては思い入れがかなり違う作品であった。それは誰もが語っているとおり、魔を鎮めることを生業とする集団の物語の(加算の意味の)和の魅力であり、殺伐としていない真っ当な人間関係が構築する(調和という意味の)和の魅力であり、鬼や魔という日本的風土に由来する設定や画面に描かれる筆文字が成す(日本的という意味の)和の魅力である。

そんな響鬼について語られたのが本書である。それは解説書であり研究書でもあるのだが、なによりこれはラブレターなのである。だからそこに書かれた文章には、あふれんばかりの、そして少しだけの悔しさをもっての愛情があふれている。

冒頭のやや一般論的な響鬼の魅力はさておき、自分にとっての一番の魅力は少年の成長の物語であった。明日夢が悩み、考え、そして導かれながら、自分で答えを出していくまでになる成長の物語。だからこそ後半での悶々とした展開は成長の方向性が「鬼になる」という単純な選択肢になってしまったことに違和感を覚えた。
であるからこそ、最終回の幕の閉じ方はは、初期の響鬼の方向性に回帰していると思ったし、観る側の気持ちの整理がついたな、と感じたのであった。

振り返って自分はヒビキさんたちのような真っ当な大人であるのだろうか。次代のよき手本足りえているのだろうか。いや全然ダメだ。とあっさりと敗北宣言を掲げてしまうようなダメ人間ではあるが、そんな大人に対しても「鍛えてますから」と云えるようになりたいと思わせる。そんな魅力を持つ作品であった。

ともあれ、そんな共感を持った作品への思いを共有するための本でもあるということだ。必読。

(それはそれとして、純粋に読み物として面白かったのは対談のパート。やはりプロの言葉には重みがあるのだなぁ)

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響鬼探究 Book 響鬼探究

販売元:国書刊行会
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2007年7月23日 (月)

ワーキング・ホリデー

坂木司ならではの人情話、一気読みであった。

始めて出会うことになった少年と父親のヒト夏の物語とくれば、泣けることは必至。特にミステリーなどのギミックを排し、本当にふたりの夏休みを追い続けるという構成になっており、実に直球なのである。また、坂木作品ならではの、登場人物それぞれがどこかデタラメなくせに憎めないいい奴らで、読んでいて、ああ、いいなぁ。と思うのであった。まあ、相変わらず誰も彼も説教くさいってのはご愛嬌なわけだが、それも含めていいじゃない、と思う。

自分の指向としては、基本的に他人とのつながりをあまり求めるタイプではなく、簡単に云ってしまえば人間嫌いなわけで、だから人間っていいよね、という物語には「それは絵空事だ」という気持ちと同時に、裏返し的に「そういう関係って必要だよな」という希求する気分がある。だからこそ本作のような作品は面白く思うのだと思う。

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Book ワーキング・ホリデー

著者:坂木 司
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