2008年4月13日 (日)

職人ワザ!

最近とみに文化的アイデンティティに対するこだわりが出てきた。だから日本の文化に対する興味や同意についてはかなり思い入れと思い込みがある。筆者いとうせいこうもいかなる意識の変遷があったのかは知らないけれど、ここ最近の日本文化へのコミットぶりについてはかなり強いように思う(同傾向としては南原清隆とかね)。てなわけで、本作はそういう人にとってはかなり面白い内容であるといえよう。と、他人事っぽく書いてみたが、ようは自分が相当に楽しんだんだよ、ということである。
個々のエピソードで描かれる職人の仕事に対する意識のありようはどれもかっこよく、自分もこうありたいものよと思うのだが、付け焼刃じゃあなかなかああはいかないねぇ。

最近、人の話を聞くということに対しても意識的に取り組まないといけないなぁと思っていたこともあって、インタビュー文のありかたについてもかなり参考になった。まあ、根本的な部分で自分は他人に興味がないってのが致命的なんだけれど(ダメジャン)。

それにしても手ぬぐい。うらやましいなぁ。

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Book 職人ワザ! (新潮文庫 い 39-5)

著者:いとう せいこう
販売元:新潮社
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2008年3月16日 (日)

逆襲の地平線

この作者のストーリーテリングは常に見事である。今回も物語の勢いとスピード感、そして叙情性などがはまるべく配分で配置され、一気に読了させられてしまった。

自分は西部劇って実はそんなに好きではない。多分それは銃社会の悪しき礎となったゆがみをそこに感じているせいだ(というとエラソーだな。単純に銃反対ってことだ)と思うのだが、それはそれとして話として面白ければやはり嫌うべきではないとも思っている。

やはり今の時代に書かれるということの意義は、あるのだろうと思う。

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逆襲の地平線 (新潮文庫 お 35-8) Book 逆襲の地平線 (新潮文庫 お 35-8)

著者:逢坂 剛
販売元:新潮社
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2008年3月 8日 (土)

かたみ歌

連作短編集の基本、見本のような物語である。どこにでもある懐かしさをもった町を舞台に、ちょっとだけの不思議をスパイスに展開する人間模様。時に怖く、時に切なく人々の生き様を語っている。
連作短編集としての仕掛けは、ひとつの物語にちょっとだけ登場するキーワード、それは店であったり人であったりするのだが、それが次の物語の主人公となる技法は王道ではあるが、きれいに決まっており、また、前編を通じて登場する古本屋のエピソードで全体の物語をしめくくる構成力もまた見事である。とにかく、本当に連作とはこういうものであるという王道を王道として描いた、そんな物語であった。

と書くとべた褒めのように思うでしょうが、自分としては、そんなに入れ込んだ感想を持ったわけじゃあないのですね、実のところ。作話技法の見事さは確かにすごいと思ったのだけれど、そして各話ともに過不足なく見事にまとまっており上手いなぁとも思ったのだけれど、そのテクニックが逆にいやらしさに感じてしまったせいで、若干引き気味に読んでしまったのだ。
特に、昭和30~40年代をノスタルジックに描いているけれど、作者の年齢からするとその時代の空気を記憶しているはあまり思えず、つまり、これはあくまでも創作上のテクニック、技法上の装飾なんだろうな、と推測するわけですよ。そう思うと、昨今の昭和懐古ブームに上手く乗ってるようにもみえてしまって、結果、微妙に醒めてしまったということです。

でも、まあ、すごく勉強にはなるので、一読はすべきですね。

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かたみ歌 (新潮文庫 し 61-1) Book かたみ歌 (新潮文庫 し 61-1)

著者:朱川 湊人
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2008年2月22日 (金)

精霊探偵

ホラー(オカルト)的設定の体裁ではあるが、実際は外宇宙侵略モノ、集合生命体型でしかも精神生命体のエイリアンと、思いきり古典的でコテコテのSF。そんなストーリーを、ホラーテイストでパッケージングしているのは、SF離れ著しい客受けを考えてのことなのか、はたまた単純に先行作品とのバリエーションとするためか、そこらへんはよく判らないが、ともあれ、そんなそんな設定ゆえガチャガチャした感じの仕上がりになっている。

読む人によって捕らえ方は様々ではあるのかもしれないが、自分はこれはスラップスティックだなぁ、と思うのだった。もしかすると感動叙情系なのかもしれないが、自分はそのようには読めなかった。
実際のところ、(最近の)カジシン作品はどれもこのようなテイストなのだけれど、一般的にはやはり泣けるホラー作家(@黄泉がえり)なのだろうか。

ともあれ、そんな感じの作品なのだけれど。今回、クライマックスの叙述トリックによるどんでん返しもそこそこに驚かされたし、けっこう楽しんで読むことができた。ラストの余韻の潔くなさも、これがバカSFであるということを前提に読めば納得できるだろうし、こうして深く静かにSFは浸透していくのであったということだろう。

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精霊探偵 (新潮文庫 (か-18-9)) Book 精霊探偵 (新潮文庫 (か-18-9))

著者:梶尾 真治
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2008年2月13日 (水)

写楽・考

面白かったことは面白かったのだけれど、若干鼻につくところもあって、心地よくない印象もないわけではなかった。
最近我ながら偏狭な考えだなぁと自重しているのだけれど、民俗学に限らず再現性を伴えない、また確たる証拠を提示できない学問は実証なき仮説のみの学問の檻から逃れることができない。またその仮説も客観性が保ちにくく、結果として研究者の数だけ論が増えていく状況に陥らざるを得ない。またその説の強度が往々にして論の成否ではなく、人間関係のパワーゲームで決まっていく、などなど、学問として誠実じゃあないのではないか、という思いがある。これらの課題については本作内でも幾度となく言及されているのだけれど、だからどうしたら、という視座がないため読んでいて「なんだよ」と思うわけである。もちろん、本作が根本的には推理エンタテイメント作品であるため、ポリティカルな提言は不要なのだけれど、読んでいて自家中毒気味だな、と思ったりするわけだ。

それはそれとして、表題作。タイトルと話が全然あっていなくて、どうなっていくのだろうと思わせ、その結果として「写」と「楽」による事件と考察であったのか、という構成には、あれれと思った。そしてさらにもうひとひねり加わり、タイトルと謎がリンクしていく結末には、若干の強引さを感じつつ、なるほどね、と思うのであった。勝手な推測だけれど、この物語自体、タイトルの洒落が先にあって構成されていったのではなかろうか。

そんなこんなで、歪んだ感想を云ってしまったが、適度な長さとアイディアの好作品集であった。

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写楽・考 (新潮文庫 き 24-3 蓮丈那智フィールドファイル 3) Book 写楽・考 (新潮文庫 き 24-3 蓮丈那智フィールドファイル 3)

著者:北森 鴻
販売元:新潮社
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2008年2月 4日 (月)

夢の守り人

相変わらずのリーダビリティで一気読み。面白し。

この作者のファンタジーの魅力でもあり特徴でもあるのは、ストーリーは叙事的でありつつ、しかし、実際には登場人物の内面/感情といった普遍的な要素に、より字数を費やしているということだろう。それは、冷めた見かたをすれば(基本的に)新登場人物がおらず、既知の者達が物語を推進していくために、それぞれの心の動きをより深く描かざるを得ないから、ということなのかもしれない。しかし、そのために作品としての深みも出るなら、それは作話の方法論としては実に正しいと思う。

おなじみのメンバーばかりで物語が展開するということに対しては、嬉しい反面、正直なところ、ちょっとご都合主義的なのでは、という気持ちがないわけでもない。シリーズ作品はどれも同じようなことがいえるし、普段はそんなこと気にもしないのだけれども、本作があまりにも語り口が流暢で、かつ叙事詩的なダイナミズムも持っているため、なんでこの人たちばかりにトラブルが舞い込んでくるの? という外形的な部分が目立って感じてしまったせい。まあ、ふと思った程度なのでどうこういう話でもないか。

とにかく、早いところ次巻を待望している(元本で読めばいいんだけどね)。

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夢の守り人 (新潮文庫 う 18-4) Book 夢の守り人 (新潮文庫 う 18-4)

著者:上橋 菜穂子
販売元:新潮社
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2007年12月31日 (月)

絵描きの植田さん

絵本というふれこみなのに全然挿絵がなく、それにしては紙質もいつもの新潮とは違っており、これはいったいどういう意図かと思いつつ読み進んだのだが、そうでしたか、そういうことでしたか。

シンプルに描かれた絵は、ただの挿絵などではなく、物語と密接に結びついており、正直してやられたと思った。

物語はいしいしんじらしい、寓話調のスタイルで語られる、ひと冬のささやかな出来事/奇跡である。悲劇的に進むのか大団円となるのか、途中まで、いやクライマックスまで判断できず、内心ドキドキしていたのだけれど、とりあえずよかったなぁ。

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絵描きの植田さん (新潮文庫 い 76-6) Book 絵描きの植田さん (新潮文庫 い 76-6)

著者:いしい しんじ
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2007年12月30日 (日)

はい、泳げません

はい、自分も泳げません。人間は必ず浮くからという虚言を信じられません。人は沈むのですよ、絶対に。プールならまだしも海だったら最悪。沈むだけじゃなくそのままどこかへさらわれていってしまうに違いない。水怖し! だから筆者の苦悩が実によく判る。

この本の一番の読みどころは実は本文ではなく、章間のインストラクターの一言にあるように思う。これが実に憎らしい。泳げない者の心がまったく判ってない人間の無意識の優越感が文中にしっかりと表現されている。少なくとも自分はそういうふうにしか読めなかったのだが、泳げる者からすれば、なんでそうひがみっぽく読むかなぁ、と思うのかもしれないとも思うし。身体能力/機能がもたらすこのディスコミュニケーション。もっともこれが本作の泳げる者と泳げない者の思考のズレを相対化して表現しており、そこが面白いなぁと思って読んだのも確かなんですけれど。

ともあれ、泳げない人は必読。読んで泳げるようにはけしてなれないけれど、泳げないことに対する共感を得ることだけはできると思う。ただ惜しむらくは筆者は「泳げない人」のままであってほしかったかなぁ。

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はい、泳げません (新潮文庫 た 86-1) Book はい、泳げません (新潮文庫 た 86-1)

著者:高橋 秀実
販売元:新潮社
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2007年12月18日 (火)

おまけのこ

ほのぼのとしつつどこか諦観じみた哀しみを醸し出す本シリーズ。定番的に読めるので、いまさらどこが面白いとか語ることも不要なのだけれど、ね。

前作今作と思ったのは、主人公一太郎を中心に話をまわすのではなく、脇役を主人公として語るエピソードが増えてきたことだろうか。今巻は特に、屏風のぞきや家鳴といった、サブのサブのキャラクター達が中心となる話がある。そのことによって、作品世界の広がりがでて、シリーズとしては妥当な成長をしているといえるのだが、しかし、反面、妖のキャラ化(シンボルとしての妖怪ではなくアイドル的なそれ。うーん、ちょっと上手く説明できないが)が、進むことにもつながっており、そういった萌えシロを増やすようなのは、ちょっとどうかな、と思わないでもない。もっとも、商売的にはそれもまた正しい選択なんだよなぁ。

(ま、そういう印象を持ったのはタイムリーにTVドラマがあったからかもしれないけれど)

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おまけのこ (新潮文庫 は 37-4) Book おまけのこ (新潮文庫 は 37-4)

著者:畠中 恵
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2007年11月19日 (月)

東京大学応援部物語

個人的にはどうしても楽しめなかった。というのも、やはり時代錯誤的全体主義による応援部というシステムが、自分のスタイルである超個人主義とは真逆であり、感覚/感情/観念として絶対に受け入れられないからだと思う。もちろん文中にもその点に関する問題提起は幾度となく繰り返され、また登場する人物達もそれに悩んでいるのだということは読み取れる。故に理屈としてはその必然、あるいは必要悪としての存在である事は十分理解できる。しかし、そういうもんだろうなと思っても、それを受け入れられるかどうかは別である。

というわけで、この人たちヘンだよ。という意識が前面に出てしまって、読んでいても楽しくなかったのであった。結局、自分との相性の悪い本であったというしかない。うーん、なんとも残念である。

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東京大学応援部物語 (新潮文庫 さ 53-4) Book 東京大学応援部物語 (新潮文庫 さ 53-4)

著者:最相 葉月
販売元:新潮社
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